北朝鮮当局が若者たちの恋愛表現にまで厳しい統制を加えていることが分かった。特に「サランハンダ(愛している)」という表現を「退廃的生活様式」とみなし、思想的に問題視する動きが強まっている。

現地住民の間では「個人の感情まで取り締まるのは行き過ぎだ」と反発や皮肉が広がっているという。

咸鏡南道のデイリーNK内部情報筋が伝えたところによると、今月13日、咸興市内のある工場で青年同盟幹部らが組織生活指導に訪れた際、所属青年のカバンから恋人に宛てた手紙が発見された。問題視されたのは、そこに書かれていた「サランハンダ(愛している)」「いつも君のことばかり考えている」といった率直な愛情表現だった。

検閲を主導していた工場青年同盟副委員長は、これを「資本主義的恋愛観に侵された退廃的な生活態度」と断じ、その場で即座に思想闘争会を開いた。いわゆる「吊し上げ」である。その場では「精神が腐敗している」との非難が相次ぎ、青年は組織員の前で公開的に自己批判を強いられたという。

情報筋は「恋人同士で『チョアハンダ(好きだ)』はよく使うが、『サランハンダ』という表現はむしろ少ない。言葉では言えない思いを手紙に託しただけなのに、それを思想問題にした」とし、居合わせた青年たちの表情も「苦虫をかみ潰したようだった」と証言した。

北朝鮮では、韓国や中国の音楽、映画、娯楽番組といった外部文化の流入を徹底的に取り締まっており、2020年に制定された「反動思想文化排撃法」、翌年の「青年教養保障法」によって監視と処罰は一層強化された。当局は青年同盟を通じ、抜き打ちで携帯電話や電子機器の検閲を行っている。今回の一件もそうした検閲の過程で偶然発覚したものとされる。

一方で、事件の顛末はすぐに住民社会に広まり、「愛しているという言葉が退廃なら、この世に退廃でないものはない」といった皮肉が飛び交ったという。

別の住民も「個人の感情まで統制するのは理解できない」と不満を示したとされる。

情報筋は「青年同盟が今回の件を大きく扱ったのは、若者を萎縮させ、個人的な感情まで縛ろうとする意図だ」と分析する。しかし、その強硬なやり方はむしろ反発や冷笑を招き、若者たちの間では「統制が強まれば強まるほど、逆に反感が膨らむ」との声も漏れている。

この出来事は、北朝鮮当局が社会全体の思想統制を徹底する過程で、恋愛という極めて私的な領域にまで介入している実態を象徴している。だがその一方で、住民の間では統制の過剰さに対する不信と反発が着実に広がりつつあるようだ。

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