「北朝鮮を誰も止められなかった。その結果、彼らは今や弾道ミサイルと核弾頭を手に入れた」――。

ベンヤミン・ネタニヤフ首相が2日、米FOXニュースで語ったこの言葉は、イラン攻撃の正当性を訴える文脈で発せられたものだ。しかし同時に、核保有を既成事実化した国家がもたらす長期的な不安定性を示す警句でもある。

北朝鮮は核実験と弾道ミサイル発射を重ね、事実上の核武装国として振る舞っている。国際社会が制裁を科しても、その開発は止まらなかった。結果として、いまや東アジアは「核を持つ北朝鮮」を前提に安全保障を考えざるを得ない状況に置かれている。

問題は、核保有そのもの以上に、その運用思想だ。北朝鮮の金正恩総書記は核を「体制保証の最後の担保」と位置づける一方、有事には戦術核を含む先制使用の可能性を法制上も排除していない。指導部が体制崩壊の危機に直面したと判断すれば、「使われる前に使う」という発想に傾く危険性は否定できない。

ロシアのウクライナ侵攻や中東の緊張激化が示すのは、国際秩序の抑止力が揺らいでいる現実だ。抑止は相手の合理性を前提とするが、情報が閉ざされた体制では、誤認や過剰反応が致命的な決断を招きかねない。とりわけ指導者の安全が脅かされたと映れば、限定的核使用で戦局を一変させようとする誘惑が生じる。

ネタニヤフ氏の発言は「手遅れになる前に行動せよ」との論理に立つ。

だが東アジアでは、軍事的選択肢は極めて高い代償を伴う。だからこそ重要なのは、核使用の敷居を徹底して高く保つ抑止力と同時に、偶発的衝突を防ぐ危機管理の枠組みを強化することだ。

北朝鮮の核は既成事実となった。しかし、その先制使用までを既成事実にしてはならない。国際社会が「止められなかった」過去を直視するなら、次に問われるのは、いかにして「使わせない」かである。

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