しかしこの呼称も使われることが少なくなり、「ウィスキーソーダ」、「バーボンソーダ」(バーボンウィスキーの場合)に取って代わられていた。言葉の使用頻度との関係は不明だが、ウィスキーの消費量も2007年の時点で全盛期の5分の1にまで落ち込んでいる。
しかし今年になってテレビのCMなどで「ハイボール」を耳にする機会がぐっと増えた。やはり火付け役はサントリーで、比較的若い層にむけてウィスキーの新しい楽しみ方を伝えるのが目的らしい。狙いどおりウィスキーの売上は上昇し、サントリーの「角瓶」の販売数量は今年、前年比15.6%増の見込みという。
「ウィスキーを冷やした炭酸水で割って飲む」だけのことでも、宣伝でタレントが教えてくれる「つくりかたのコツ」どおりに試してみると、カクテルづくりの達成感が味わえる。死語になりかけた名称もむしろプラスに働いた。若年層には新鮮であり、時代を知る者には懐かしいのだ。
「既存の商品に新しい意味付け」というセオリーどおりの宣伝が、見事に効を奏したわけだ。口でいうほど簡単なことではなく、宣伝費もバカにならないが使える手法ではある。
宝酒造は、先見の明があるのか既に2007年に「タカラ焼酎ハイボール」を発売している。
大塚ベバレジの「ジャワティー」も成功例のひとつだ。この商品が1980年代に登場したときは驚いた。ジャワティーとは、原材料表記にもあるように要は紅茶である。しかし「紅茶」を全面に出さず、あくまで「どんな食事にも合う新しいお茶」として、お洒落にパッケージングしたことでヒットした。
その後、緑茶やウーロン茶など他の無糖茶が飲まれるようになったせいか、影が薄くなってしまったが現在でも入手可能だ。紅茶ではなく「ジャワティー」だと思えば、和食にも合うから不思議である。
このたびのハイボール人気はウィスキー消費を伸ばし、業界2位のニッカにも追い風となった。炭酸水の売上も伸びているし、若者のアルコール離れをわずかだが押しとどめることができたろう。
ここまでの成功は望めないにしても、既存の資産に別の角度から光を当てることでヒットを生み出すことは十分可能だ。長年にわたり細々と使われている身近なあれこれが、明日は脚光を浴びることになるかもしれない。
(工藤 渉)
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