合併会社の“宿痾(しゅくあ)”だろうか。製薬大手・第一三共における社長交代劇である。
6月28日付けで、庄田隆・代表取締役社長兼CEO(61歳)が代表取締役会長になり、後任として中山讓治・副社長執行役員日本カンパニープレジデント(60歳)が昇格する人事が発表された。森田清・代表取締役会長(71歳)は相談役に退く。
このタイミングの発表に、業界は少なからず驚いた。庄田社長の去就は注目を集めつつも、「社長交代は来春」との見方が優勢となっていたからだ。春以降、3月に第2期中期経営計画(2010―2012年度)を発表、4月にはグローバル経営に即した組織改正を行うなど、庄田社長は今後の舵取りにも意欲を見せていた。結局、おおかたの予想は外れ「新中期計画が始動するタイミング」(庄田社長)を選んだのだった。
後継候補としては、これまで2人の名前が挙がっていた。当の中山副社長執行役員と、荻田健・取締役専務執行役員である。
タイプも異なり、甲乙つけがたいと言われたが、先に一歩抜け出したのは、旧三共出身の荻田専務だった。一昨年、常務執行役員から昇格して取締役に就任、人事・研究開発を管掌してきた(現在はグループ事業戦略統括)。新薬メーカーとして、サイエンスに通じた荻田専務を推す声は社内外で根強かった。
一方の中山副社長は“異色”の経歴の持ち主だ。
では、何が二人の勝敗を分けたのか?
「庄田社長の身の振り方が影響した」(同社幹部)とはもっぱらの見方。旧三共出身の庄田氏が会長に就くことで、同じ旧三共出身である荻田専務は分が悪くなった。会長・社長を旧三共出身者が占めることを、旧第一勢力、とくに森田会長が許さなかったのだ。森田会長には、旧第一出身者の庇護役との自負がある。昨年も会長を退く話が出たが、首を縦に振らなかったといわれる。今回の人事でも、同時に新たに旧第一出身の廣川和憲専務執行役員を取締役に昇格させるなど、取締役会内の“三共VS第一”のバランスは維持させた模様だ。
社内で中山氏“当確”との雰囲気が広がったのは、2月末に組織改正に伴う人事が発表されて以降。
統合後に役職員の配置で出身企業のバランスが図られることは珍しくない。だが、グローバル競争にさらされたなかで、社内政治にかまける時間はないはずだ。 3月に発表した新中期経営計画で第一三共は、09年度の売上高9600億円、営業利益960億円(予測)を、12年度に売上高1兆1500億円、営業利益1800億円まで伸ばすという目標を設定した。じつに世界市場の年間伸長率予想4.5%を上回る、6.2%成長を遂げるという高い目標だ。
幸い中山新社長は鷹揚かつ飄々としており、是々非々で経営に邁進するタイプ。出身企業のつばぜり合いが陰に陽に続く社内をいかにさばけるか。同社がビジョンとして掲げる“グローバル・ファーマ・イノベーター”という旗印に向けて、新社長の手腕が問われる。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 柴田むつみ)
6月28日付けで、庄田隆・代表取締役社長兼CEO(61歳)が代表取締役会長になり、後任として中山讓治・副社長執行役員日本カンパニープレジデント(60歳)が昇格する人事が発表された。森田清・代表取締役会長(71歳)は相談役に退く。
このタイミングの発表に、業界は少なからず驚いた。庄田社長の去就は注目を集めつつも、「社長交代は来春」との見方が優勢となっていたからだ。春以降、3月に第2期中期経営計画(2010―2012年度)を発表、4月にはグローバル経営に即した組織改正を行うなど、庄田社長は今後の舵取りにも意欲を見せていた。結局、おおかたの予想は外れ「新中期計画が始動するタイミング」(庄田社長)を選んだのだった。
後継候補としては、これまで2人の名前が挙がっていた。当の中山副社長執行役員と、荻田健・取締役専務執行役員である。
タイプも異なり、甲乙つけがたいと言われたが、先に一歩抜け出したのは、旧三共出身の荻田専務だった。一昨年、常務執行役員から昇格して取締役に就任、人事・研究開発を管掌してきた(現在はグループ事業戦略統括)。新薬メーカーとして、サイエンスに通じた荻田専務を推す声は社内外で根強かった。
一方の中山副社長は“異色”の経歴の持ち主だ。
サントリー入社後、旧第一製薬との合弁医薬会社に転じ、第一三共に合流した。国際畑が長く、4月まで常務執行役員として海外管理部長を務めてきた。実力に加えて強みと言われたのが、「第一にも三共にも寄っていない」点だった。余談だが中山太郎・前衆議院議員の息子で血統も折り紙付きだ。大学院卒業後すぐにアメリカに渡り、ノースウエスタン大学大学院で当時としては珍しいMBAも取得している。
では、何が二人の勝敗を分けたのか?
「庄田社長の身の振り方が影響した」(同社幹部)とはもっぱらの見方。旧三共出身の庄田氏が会長に就くことで、同じ旧三共出身である荻田専務は分が悪くなった。会長・社長を旧三共出身者が占めることを、旧第一勢力、とくに森田会長が許さなかったのだ。森田会長には、旧第一出身者の庇護役との自負がある。昨年も会長を退く話が出たが、首を縦に振らなかったといわれる。今回の人事でも、同時に新たに旧第一出身の廣川和憲専務執行役員を取締役に昇格させるなど、取締役会内の“三共VS第一”のバランスは維持させた模様だ。
社内で中山氏“当確”との雰囲気が広がったのは、2月末に組織改正に伴う人事が発表されて以降。
このとき中山氏は、専務の荻田氏を飛び越えて常務から副社長執行役員に昇格し、日本カンパニーのプレジデントに就任した。
統合後に役職員の配置で出身企業のバランスが図られることは珍しくない。だが、グローバル競争にさらされたなかで、社内政治にかまける時間はないはずだ。 3月に発表した新中期経営計画で第一三共は、09年度の売上高9600億円、営業利益960億円(予測)を、12年度に売上高1兆1500億円、営業利益1800億円まで伸ばすという目標を設定した。じつに世界市場の年間伸長率予想4.5%を上回る、6.2%成長を遂げるという高い目標だ。
幸い中山新社長は鷹揚かつ飄々としており、是々非々で経営に邁進するタイプ。出身企業のつばぜり合いが陰に陽に続く社内をいかにさばけるか。同社がビジョンとして掲げる“グローバル・ファーマ・イノベーター”という旗印に向けて、新社長の手腕が問われる。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 柴田むつみ)
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