半沢直樹“帝国航空”モデルはJAL
コロナで経営環境が一変

 堺雅人主演のテレビドラマ「半沢直樹」(TBS系、毎週日曜)が、いよいよ佳境に入ろうとしている。半沢が帝国航空の余剰人員の受け入れ先として計画を進めていた、スカイホープ航空の新規路線の認可が突然、却下された。

金融庁からは業務改善命令も出され、東京中央銀行の中野渡謙頭取(北大路欣也)が、金融庁長官に頭を下げさせられる事態に追い込まれてしまう――。

 窮地に立たされた半沢直樹。ここからどうやって行内の裏切り者を捜し出し、権力をかさに着て理不尽な債権放棄を迫る政府に倍返しするのか。見ものであるし、早く続きが見たい。

 ところで、ドラマの帝国航空は、2010年1月に経営破綻した日本航空(JAL)がモデル。白井亜希子国土交通相(江口のりこ)は、当時民主党政権で国土交通省の大臣だった前原誠司氏と、蓮舫・内閣府特命担当大臣(行政刷新担当)がモデルだと思われる。

 実は、筆者はJALの破綻直後、別のメディアの記者として国交省記者クラブに属し、JALを取材した経験があった。それだけに13~14年にかけて「週刊ダイヤモンド」で連載されたドラマの原作「銀翼のイカロス」は、毎週むさぼるように読んでいた。本当に面白かった。

 連載当時の思い出になるが、取材先である某政府系銀行の関係者と、銀翼のイカロスの今後の展開について議論したことがあった。

「JALには借金を踏み倒されて終わった。銀行にとっては全くカタルシスのないストーリー。

小説は一体、どうやって落ちをつけるのか」(同関係者)

 原作の結末には驚かされた。ただ、その後のJALの異常ともいえる高い収益性を考えると、納得できる興味深いものであった(なお、原作には大和田暁取締役〈香川照之〉は出てこない。ドラマと原作は少し違う部分がある)。

 さて、その航空業界だが、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、これまでとは一転して非常に厳しい状況に追い込まれている。

 今回は、「世界航空大手4~6月期赤字計上ランキング」をお届けする。20年4~6月期に純損益の赤字が大きい順にランキングした。

航空業界がどれほど窮地に立たされているか、早速確認していこう。

アメリカンは3400億円の債務超過
政府救済のエールフランス、ルフトハンザ…

 4~6月期の純損益でワースト1位となったのは、米国のデルタ航空である。赤字額は実に6147億円に上った。売上高は前年同期比88.5%減の1578億円だった(為替レートは各4~6月期の期中平均)。過去にない需要蒸発に襲われた格好だ。

 他に米国の航空会社では、3位のアメリカン航空グループと4位のアメリカン航空(持ち株会社アメリカン航空グループの主要子会社)がワースト5に入っている。

アメリカン航空グループの純損益は2223億円の赤字。売上高は同86.7%減の1744億円だった。同社は6月末時点で、3419億円の債務超過に陥っている。

 米航空会社は、各社とも大規模な減便を実施。米財務省は政府融資の形を取って、航空会社の手元資金が枯渇しないように支援している。ただ、航空需要の落ち込みはしばらく続く見通しだ。

 デルタ航空は8月24日、10月にパイロット1941人(現状のパイロットの約2割)を削減する方針を決めた。また、アメリカン航空は25日、政府の雇用支援が予定通り10月1日に失効すれば、1万9000人の従業員を削減すると明らかにした。同社は昨年末に13万3700人の従業員がいたが、既に1万2500人が早期退職を申し込み済み。このほか、1万1000人が10月以降に休職する。1万9000人の削減は、さらに上積みとなる人数だ。

 ワースト2位のエールフランス‐KLMは、3093億円の赤字。

売上高は同83.9%減の1398億円である。アメリカン航空グループ同様に債務超過となっており、その金額は3577億円と巨額だ。

 子会社のエールフランスとKLMオランダ航空が、フランス政府とオランダ政府に、それぞれ資金繰りの支援を求めるという異常事態に陥っている。

 5位はルフトハンザドイツ航空で、1768億円の赤字。売上高は同81.0%減の2243億円だった。

 中核子会社であるルフトハンザ航空も3月、ドイツ政府に資金繰り支援を要請した。支援の担保として政府の出資が必要との政治的圧力が強まり、同社の社長は「経営の独立性を守りたい」と抵抗したが、もちろん抗し切れる状況ではなかった。5月に政府による20%の出資を含む、総額90億ユーロの公的支援が決まった。

 なお、今回のランキングの完全版では、世界の航空会社59社の純損益を掲載している。ANAホールディングスは1088億円の赤字、帝国航空のモデルでもあるJALは937億円の赤字。いずれも完全版ランキングの中でワースト上位となった。当面先行きは見通せず、“業績回復で倍返し”といったドラマのような展開は望めそうにない。

 コロナ禍で実害を受けている航空業界の惨状が具体的に分かるので、ぜひチェックしてみてほしい。

(ダイヤモンド編集部編集委員 清水理裕)