週刊ダイヤモンド11月28日号の第1特集は『年収1000万円の大不幸』です。ビジネスパーソンにとって憧れの“勝ち組”で、ステータスでもある「年収1000万円」。

しかし、大台を達成しても待っている世界はバラ色ではありません。コロナショックで収入減のリスクが次々と襲い掛かる一方で、支出はじわじわと増えていき、家計の厳しさは増しています。

高年収のANAがボーナスゼロ
収入3割減は他人事じゃない!

「パイロットの訓練生が、語学学校の講師をやろうと近々面接を受けに行くという話を聞いて、自分の身の振り方はさておき、何ともやりきれない気持ちになりました」――。

 全日本空輸(ANA)で客室乗務員をしている40代の女性は、そう言って大きなため息をつく。

 パイロットといえば、言わずと知れた高年収の代表的な職業だ。副操縦士になれば20代後半で年収は1000万円の大台を軽く突破し、機長ともなれば2000万円の扉が開くとされている。

 高年収への扉を目前にして、訓練すらまともに受けられず、全く畑違いの仕事に汗を流さざるを得ないという悲惨な状況に、ANAだけでなく航空業界全体が、今まさに陥っているわけだ。

 ANAは社員の年末賞与をゼロとし、管理職については最大で月例給(各種手当含む)を15%カットする方針を示すなど、経営再建に向けて待ったなしの状況にある。

 年収ベースでは多くの社員が3割減となる見通しで、コロナ禍が家計破綻の大きな危機を生み出した格好だ。ただ、コロナ禍がもたらしたのは「賞与カット」や虎の子の「残業代の減少」という危機だけではない。

 家計を巡る構造問題として、高年収世帯を中心とした「増税」や「役職定年」というこれまで陰に隠れがちだった家計の危機をも顕在化させ始めている。

「ANAのニュースはちょっと冷めた目で見ていましたね。

今どき年金保険料を7割も負担してくれていたなんて、本当に恵まれていますよ」

 そう話すのは、IT系のベンチャー企業に勤める40代の男性だ。今春まで不動産会社で働いており、新規事業の立ち上げを担っていた。しかし、コロナ禍の影響で事業にストップがかかり、業務上全く身動きが取れない状態が続いたことで、転職を決意したという。

 昨年の年収は900万円超。1000万円プレーヤーまであと一歩のところまできていたが、新天地に移るまでに空白期間ができ、今年は3割以上年収が下がってしまう見通しだという。

 そうした中で、この男性がANAの福利厚生に敏感に反応したのは、仕事の面においてコロナ禍の影響を同じように大きく受けたからでは決してない。
 
 それは、社会保険料の負担増や増税、経済成長の停滞といったしわ寄せが、世代としても世帯年収の面でも最も生じるかたちになり、割を食ってきたという背景があるからだ。

 定率減税の廃止といった増税策によって、年収1000万円の会社員の実際の手取り額は、1割近くも減っている計算になるという。さらに、年収1000万円(片働き世帯)前後を境目にして、国や自治体からの各種手当や支援が所得制限によって、受けにくくなるという現実もある。

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