朝日新聞のマニラ支局長などを経て2009年に単身カンボジアに移住、現地のフリーペーパー編集長を務めた木村文記者が、カンボジアで開催された日本の文化を紹介するイベントについてレポートします。

カンボジアでは韓流全盛だが……

 日本の文化を紹介しながら、カンボジアの人々と交流する「日本カンボジア絆フェスティバル2013」が2月21日から24日、プノンペンの日本カンボジア人材開発センター(CJCC)で開かれた。

日本の援助で運営されているCJCCと、在カンボジア日本国大使館が共催した。

 昨年から始まったこの「絆フェスティバル」は、伝統芸能や芸術、武道から、社会支援事業やビジネス情報まで、日本に関するさまざまな情報を発信する30余りのイベントや展示で構成される。CJCCの担当者がフェイスブックでイベント情報などを拡散してきたが、反応が多く「今年の一番人気」とされたのが、コスプレショーだった。

 カンボジアでは、韓流ドラマやK-POPに押されがちで、日本のアニメやキャラクターは「ブーム」にまでは、なっていない。それでも「日本の今」を象徴し、世界に通用する文化の一つとして、今年の絆フェスでは、ゆるキャラのぬいぐるみやフィギュアを並べた「キャラクター大国ニッポン展」、カンボジアでも人気のハロー・キティグッズを集めた「ハロー・キティの部屋」を会場内に設営した。

 特にピンクを中心にしたキティちゃんグッズを並べた部屋は人気で、女の子たちが楽しそうにアイフォーンを使って記念写真を撮っていた。その姿に、ここがカンボジアなのか日本なのか一瞬分からなくなってしまった。

 そして、メインイベントともいえるコスプレショー。会場のホールには開演前から列ができ、予想を超える500人以上の観客で埋まった。パフォーマンスをするのは、メイド服の司会者、それにタイ人と日本人のコスプレーヤー3人。アニメソングに合わせたダンスや、歌を披露した。正直、歌や踊りはプロの域には達していなかったが、アニメからそのまま飛び出してきたような緑色の長い髪や、完璧なゴスロリ調の衣装に観客は大喜びだった。

「日本のアニメは芸術的だから好き」

 その会場で「クメール・アニメファンクラブ」という紙を掲げたグループに出会った。

 主宰者の一人、ナン・モニンさん(26)は公務員。2年ほど前から、フェイスブックを通して日本のアニメファンを集めてきた。現在、メンバーは約150人。学生、サラリーマン、自営業など職業はさまざまだ。実は、オンラインではなく、オフで顔を合わせるのはこの「絆フェス」のコスプレショーが初めて。彼らのフェイスブックページを見ると、「絶対行かなきゃ」「みんなに会えるのが楽しみ」「コスプレしていくから見つけてね」という書き込みが何日も前から続いていた。

 ファンクラブのメンバーの中には、自らコスプレをしてきた人たちもいた。「アケミ」と「サクラ」はカンボジア人の15歳の双子の姉妹。2人そろって、リボンのついた水色の制服でアニメ「けいおん!」のキャラクター風コスプレをしてきた。「いろいろ好きなアニメはあるけど、『NARUTO』とか『ワンピース』とか大好き。いつか日本へ行くのが夢です」

 隣国のタイやベトナムに比べ、情報も限られ、コスプレ用品もそろっていない。

アニメファンクラブも、まだ小さなサークルだ。それでも会場に集まったアニメファンたちは、日本語でアニメソングを口ずさんだり、限られた素材で懸命にコスプレをしてきたり、フェスティバルのわずかな時間を堪能していた。カンボジアの日本アニメファンに、頭が下がる思いがした。

 日本のアニメに魅かれるのは「絵がきれいで芸術的だから。それにストーリーが好き」と、モニンさんは言った。日本のアニメや漫画の特徴の一つは、高い物語性といわれる。夢や希望を与えるファンタジーだけでなく、キャラクターたちの成長過程や、人間の業などをあらわに描いた作品も多い。カンボジアの若者たちの心に、どんなアニメのどんなストーリーが染み入っていくのか、これからの広がりが楽しみだと思った。

 ところで「クメール・アニメファンクラブ」のフェイスブックぺ―ジの冒頭には、みんなで守るべき書き込みのルールが掲げてある。「広告はダメ。悪口はダメ。スパムはダメ。

アニメ関係以外のことは書かない。『HENTAI』もダメ」。

 それからもう一つ、「K-POPもダメ」。

 排除や差別ではなく、日本のアニメとオタク文化を純粋に極めようという強い気持ちゆえ、なのだろうが、「あっちもこっちも韓流」の当地にいる日本人には、じわりと染み入る言葉である。

 カンボジアのアニメファン、なんだか泣かせるなあ。

(文・撮影/木村文)

編集部おすすめ