16年前に大手スーパー、ジャスコが撤退して以来、ずっと空き地となっていたJR酒田駅前(山形県)。地元の悲願だった駅前再開発計画が、頓挫の危機にさらされている。

 原因は、建築資材や労務費の高騰だ。再開発計画のうち、ホテル棟と商業棟の入札を昨年11月に行ったが、約25億円の予定価格を3割も上回る結果となった。

 設計の見直しなども含めてゼネコン側と話し合ってきたが、予定価格内に収めることが難しかったため、再開発を進める民間会社、酒田フロントスクエアは6月18日、現在のスキームでは事業継続が困難になったと発表した。

 同日、酒田市商工会議所など地元経済3団体が酒田市長宛てに事業継続への支援を求める要望書を提出した。「何とか国や県、市からの助成を増やしていただくなどして、事業を行えないか検討中」(草深夏哉・酒田フロントスクエア常務)というが、関係者の苦悩は当分続きそうだ。

 資材費や労務費の高騰は、長らく公共工事が削減され続けたことにより、業者数が減ったことが一番の理由だ。例えば酒田市のケースでは、山形県の庄内エリア(人口約30万人)に型枠業者はたった1社しか残っていないのだという。コンクリートも業者数が大きく減少した。

業者減で供給追いつかず

 そんな中、東日本大震災の復興需要が起こり、被災地以外でも耐震工事やアベノミクスによる公共工事の発注増など、需要が増えた。

 最も需給が逼迫しているのは被災地だ。現在、地元業者だけでは工事が追いつかないため、北海道や関東など、遠隔地からも従来比1~2割増しの労務費で労働者をかき集めている。

 こうして被災地に人材が集まってしまうことで、今度は全国的に建設労働者が不足し、賃金が上昇するという現象が起きている。

 また、円安による輸入価格の上昇も効いている。鋼材やセメント、合板などは値上げ交渉の真っ最中。ゼネコンなど需要家の反発は強いが、公共工事はこれからも増えることが予想される。

「高止まりか、上昇かは、なかなか予測が難しいが、少なくとも当分、下がる可能性はなさそう」(業界関係者)

 安値での受注合戦はゼネコン業界の長年の体質だったが、ここにきて減益傾向が鮮明になり、大赤字に転落した会社もある。そのため、むやみに工事を受注せず、辞退する動きが広がっている。

 例えば、広島県呉市の新庁舎建設計画は、入札が2度も中止となった揚げ句、予算を13億円もアップさせ3度目の入札を行おうとしている。

 栃木県佐野市の新庁舎建設もやはり、工事費を12億円積み増した。また、長野市の市民会館建設では、ゼネコン側が辞退し、再入札となった。

 仕事がないというじり貧から一転、コスト高で身動きが取れなくなったゼネコン業界。問題解決のための即効策はなく、復興やアベノミクスの足かせとなっている。

 (「週刊ダイヤモンド」編集部 津本朋子)

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