「(自主回収による)カネボウ全体への影響は分からない。ただ、品質で失った信頼は、より良い品質の製品を作って回復していくしかないだろう」

 カネボウ化粧品グループは4日、美白成分「ロドデノール」の配合された一部の化粧品を自主回収すると発表した。

白斑と呼ばれる、肌がまだらに白くなるトラブルが確認されたという。皮膚科医からの指摘により調査したところ、39例のトラブルが把握できた。

 夏坂真澄カネボウ化粧品社長は沈痛な面持ちで、その影響の大きさを語った。対象となるのはブランシールスペリアなどの一部商品で、使用している顧客が25万人、回収個数は45万個という大規模なものになる。昨年末には中期計画を発表して、成長路線へ転じると誓ったばかりなのに、出はなをくじかれた。

 まず自主回収の回収費や買い取りに約50億円かかる。さらに対象商品の売上高は国内が50億円、海外が20億円(卸売りベース)であり、この売上高が削げ落ちることになる。少なくとも50億円以上の減益となるのは間違いない。問題の成分は美白成分であり、それをウリにした商品開発をしていただけに、代替製品の開発は容易ではない。カネボウ全体のブランドイメージの悪化も必至で、数字以上に打撃は大きい。

 カネボウは2006年に花王の傘下に入ったものの、業績低迷が続いていた。昨年6月には初めて花王出身の夏坂社長が乗り込んでいき、テコ入れを図っているところだった。

 12年度は変則決算のため、比較可能な11年度の売上高が約1900億円、12年度ののれん償却前営業利益率が7%であるのに対して、昨年末に発表した中期計画では、「15年に売上高2000-2200億円、(のれん償却前営業)利益率約10%を目指す」(夏坂社長)という目標をぶち上げたばかり。ブランドの集約やアジア・中国・ロシアの強化、花王とのコラボレーションなどにより業績アップを狙っていたが、シナリオが狂ってしまった格好だ。

 13年12月期については、売上高1900億円強、ロイヤルティー控除前営業利益率は約8%(約152億円)を見込んでいるが、達成に暗雲が漂う。

親会社・花王にも大打撃

 この影響は親会社である花王にも及ぶ。12年12月期(4~12月の変則決算)のビューティケア事業(カネボウ含む)は、売上高4444億円、営業利益218億円に上るが、花王の化粧品ブランドである「ソフィーナ」は赤字状態が続いており、利益面ではカネボウへの依存が大きかった。ただでさえ、ビューティケア事業は花王にとって利益率が低い「お荷物」であるだけに、一刻も早い立て直しが必要だ。

 ただその道筋が平たんではない。何はともあれ必要なのは、顧客からの信頼回復である。

 ロドデノールが入った化粧品は08年から発売し、「11年には肌トラブルの相談が寄せられ始めていた」と夏坂社長は言う。さらに、トラブルが起こったメカニズムは、まだ解明できていないというから、まずは原因究明を急ぐべきだろう。今回の反省に基づいて、利用者の声をきちんと分析し、成分に問題があることを発見する仕組みなどを整備する必要がある。

 花王も09年、食用油「エコナ」の安全性問題をめぐって、自主回収決断までに時間がかかったことで、社会的非難を浴びた。

今回は実際にトラブルがあった使用者もおり、早々に自主回収を決めたのは、正しい決断だったといえそうだが、信頼回復は一筋縄ではいかないだろう。
植物由来原料でも注意が必要

 今回、自主回収の対象となってのいるは、美白化粧品のうち医薬部外品有効成分であるロドデノールの配合された製品だ。植物由来成分で、カネボウが独自に開発した。

 ロドデノールは、薬事法に基づいて厚生労働省から承認を得た成分であり、化粧品の中でも比較的厳しい安全性試験をクリアしている。「不正に承認を取得した形跡は見当たらない」(夏坂社長)という。厚労省に調査報告書を提出したところ、強制的な自主回収命令は出なかったが、ロドデノールと白斑症状との関連性が懸念されるため、自主回収を決めた。

 化粧品の安全性について詳しい、小西さやか・日本化粧品検定協会代表理事は、「植物由来原料だからといって一概に安全と思い込まず、実際に自分の肌で試してみて、合わないと思ったときには、即座に使用を中止すべき」と指摘する。こうした消費者への啓発活動もカネボウは取り組むべきであろう。

 (「週刊ダイヤモンド」編集部 野口達也)

編集部おすすめ