『半沢直樹』の大ヒットも記憶に新しい日曜9時枠に、同じく池井戸潤氏原作のドラマ『ルーズヴェルト・ゲーム』(4月27日21時スタート/TBS系)が登場する。不況、リストラ、倒産の危機……ビジネスパーソンなら誰もが人ごとではないこのテーマに制作陣はどう挑むのか? 主演の唐沢寿明、半沢に続き演出を手がける福澤監督、そして原作の池井戸潤氏がほかでは語れない本作の「裏側」を語る!
みんなが逃げる試合だから面白いと思う(唐沢)
池井戸 僕はそんなにドラマを観る方ではないんですけど、第1話を観て、ものすごいクオリティの高いエンタメになってるなと思いました。
福澤 原作を読んだ感動をどうやったら、出せるのか。非常に考えました。「半沢直樹」の時は銀行でしたが、今度は銀行とメーカーの話でも、メーカー側を描いている。それにしても、最初は誰も企業物の「半沢直樹」が当たるなんて思わなかったじゃないですか。
唐沢 それだけ、注目されているってことじゃないですか。僕は人生でよく、こういう厳しい状況に追いやられることがあるんですよ。今回もまさにそう(苦笑)。「半沢直樹」があって、その後にそのスタッフが集結してやるドラマの主演をやろうなんて奴は、なかなかいませんよ。はっきり言って、0か100なんだから。みんな逃げると思う。僕はどっちに転ぼうが、面白いと思いますけどね。自分的にはその方が面白い人生を歩めると思うから。
池井戸 今回、「半沢~」があったから、やりにくいんでしょうね。
技術力こそ日本の誇りです(福澤)
唐沢 最近の若い世代の中には、最初から言い訳して、逃げる人が割と多くいる気がする。でも、俺ら若い時って絶対に言い訳しなかった。結局、諦めちゃだめなんだと思うんです。若かろうが、年をとろうが。特に若い頃は諦めちゃダメなんだ。
福澤 このドラマも、若い人が見て、考えてほしいですね。日本は借金まみれとはいえ、生まれた時から裕福な国に生まれて、あまり挫折とか知らないと思うから。銀行や証券会社が入って投資だなんだとやってもいいですけど、結局、日本に金を持ってくるのは、この青島製作所のような、地道にやってる会社の技術力だと思う。そこら辺を感じてほしいですね。
唐沢 昔のことと比べてもしょうがないとは思うんだけどね。だって、生まれてすぐにスマートフォンがある世代と、駅の掲示板に「30分待ちました。来ないので、家に戻ります」って書いていた俺らの世代とは全然、違うとは思う(笑)。理解できるし、傷つきたくないのもあるだろう。でももうちょっと頑張ってみてもいいんじゃないかな。いまの人は「頑張れ!」って言われると、嫌なんだってね。でも、やっぱり頑張らなきゃいけない。生きていくことの方がつらいんだから。この現場なんて大変だよ。言い訳なんかしてたら、どんどん置いてかれちゃう。自分もカットされるかもしれないし(笑)。
福澤 現場、なめてくる人はまずいですよ。
唐沢 監督、こないだはボランティアで来てくれた豊橋のエキストラの方々にまで怒鳴ってましたからね。「いま、打ったんだから、そこは立つんだろぉぉぉぉっ!」って(笑)。野球のシーンは絶対的に
映像にはかないませんね(池井戸)
福澤 一つ言えることは、今期のほとんどのドラマの一回目を見ましたけど、このドラマは完璧に熱量が違います! 何日もかけて勉強をしてこないと、絶対にできないシーンがたくさんある。
唐沢 もう、千本ノックみたい。こんなにやらされるのかと(苦笑)。舞台の稽古レベルのことを家でやっていかないと、現場では喋れないですね。あのスピードと内容。台詞をちゃんと理解して、体のなかに入れていないと喋れない。これはもう新しいチャレンジだと思ってます。カメラにこんなに近づかれるのも初めてだから、集中力を保つのも大変だけどね。
池井戸 テレビカメラってズームは付いてないんですか?
福澤 これが不思議なもので、遠くからズームで撮ると、そういう感覚で見えてしまうんです。カメラをワイドで近づけると、息遣いまで聞こえてきそうな感じ。いいカメラを使ってやってますから、熱量が伝わってくるんですよ。池井戸先生が小説はチャンバラとおっしゃってましたけど、まさにそんな感じです。会議室の場面は斬りあいのイメージ。殺陣のシーンのような感覚で撮っていきたいと思っています。
池井戸 僕の小説はエンターテインメントなんで、読んで、「ああ、面白かった」って思ってくれればそれでいい。道具立てを会社にしてるだけで、中身はチャンバラ劇。言いたい放題やってる主人公がいて、やられてやり返す。エンターテインメントの王道を目指して書いています。
唐沢 原作、うまくできていますよね。僕は社会人野球には、実はあまり興味がなかったので、最初は「野球か」と思っていたら、読み進めるうちに企業の話が展開していき、実に面白い。
福澤 池井戸先生の作品を好きなのは、最終的に日本の戦力は技術力だというところです。僕もまさにそう感じてます。資源のないこの国が唯一、生き残れるのは技術力やそれを開発していく力。「下町ロケット」もそうですが、「ルーズヴェルト・ゲーム」にもイメージセンサーというものが登場する。こんな風に表に口に出して言うと、カッコ悪いですけど、企業の開発力、技術力がいまの日本を救ってるということをドラマを見て感じていただければいいなと思いますね。
池井戸 ドラマは原作とは微妙に違うんですよね。「あ、こういう風にしたんだ」って見比べるというと変だけど、その差が面白かったです。小説って基本的には目に見えるものは書かないんですよ。心情描写がメインなので。それに野球のシーンはどんなに迫真の描写で書いたとしても、絶対、映像には勝てない。だから、これをドラマにすると福澤さんから聞いた時は、最適だと思ったと同時に、小説でできなかったことをきっと描いてくれるんだろうなと思ったんです。今回は、野球のシーンがすごくよくできていて、映画の『フィールド・オブ・ドリームズ』みたいな野球の原初的面白さ、楽しさがよく出てますね。ピッチャーがボールを投げて、ミットに収まる音、打球の音、そのプレイを見て、拍手を贈る観客の声援……。福澤さんの野球愛がにじみ出てるなと思いましたね。とてもよかったです!
唐沢 (青島製作所会長役の)山崎(努)さんが「いいですね」と言った時の笑顔がまた、いいんですよ。あの方も実際、野球好きなんで、本当にうれしそうに笑ってました。実際にみんな野球ができるメンバーなんです。ボールを拾う瞬間やバットを構えた時に、やってたかどうか、すぐバレますからね。
企業人としての細川を描く。そこは大切にしたい(福澤)
福澤 僕は今回、女性は見なくて結構と思ってるんです。
池井戸 「半沢~」の時もそう言ってたね。オッサンだけ見りゃいいって(笑)。
福澤 僕は女性の心なんてわからないから、もういいんです。媚び売ると、ろくな事ない。男性だけ見てください。もしよかったら女性もと言う気持ちで作ってます。チャラチャラしたところもあまりないし、なんてったって、家庭が出てきませんから。普通だったら細川社長の家庭を描くんだろうけど、そういうのは一切ありません。会社か野球部だけ。「半沢~」の時は子どもがいるのに画面には出さず、いろいろ言われましたけど、そこは大切にしているんです。怖いんですよ。家庭を描けば、いろんな説明もできる。でも、勝負します。
唐沢 このサイトを読まれている方は原作を読んだ方がほとんどだと思いますが、期待していただきたいし、それに応える展開に当然、なっていくと思います。僕らがやって、どうなるか。原作とはちょっと違うかもしれないけど、その差を楽しみにしていただければ。
池井戸 中身は大丈夫! 面白いですよ。
福澤 ただテレビ局ってすぐ視聴率で判断するところがありますからね。徐々に上がっていってくれればいいんですが……。
唐沢 実は、監督に秘密のプレゼントがあるんです。昔よく、巨人の選手と遊んでいたんですが、当時は原(辰徳)さんが現役で、いろんな頂き物をしたので、それを1話のオンエアの結果次第ではお送りしたいと思っております。
池井戸 だったら、僕も白石オーナーからいただいたジャイアンツグッズがたくさん、ありますよ。
福澤 ありがとうございます。すごいジャイアンツファンなもんで(笑)。
唐沢・池井戸 いや、まだ、結果を見てからですから(笑)。
福澤 いやぁ、大丈夫かな。本当はビビっちゃってるんですよ、僕(苦笑)。
(文・構成/高山亜紀)