トヨタの超小型電気自動車「i-ROAD」が話題の的になっている。愛知県豊田市に続いて、東京都内でも9月末まで、ワンウェイ型シェアリングサービスの実証実験が行われているから、ナンバーつきで公道を走る姿を見かけた方もおられるだろう。

「i-ROAD」は三輪式。しかし、後輪が二輪である三輪車とは逆で、前二輪+後一輪の三輪式だ。バイクのように傾いて旋回する。

 ハンドル操作に応じて後輪が舵のように動き、テールを振って回る走りが独特だが、普通免許があれば運転できる(当サイトに、ジャーナリスト桃田健史氏による詳細な試乗記事があります)。


 しかし疑問も湧いてこないだろうか? そもそもなぜ、三輪なのかと。

 開発元のトヨタによれば、それは駐車の利便性と走行安定性を両立するためだという。欧州では道路脇にバイク用の駐車場があるため、大きめのスクーターサイズに車格を収める狙いがあった。しかしそうすると車幅が狭くて旋回時に横転しやすくなるため、三輪とすることでバイクのように傾けられるようにすることで、安定性を高めたのだ。

「超小型モビリティ」としても
ひときわスリムな「i-ROAD」

 要するに、クルマとバイクのよいとこ取りだ。三輪だから自立するし、傾きはコンピュータ制御だから二輪経験の必要もなく、ドアがあるので雨風もしのげる。そして(現時点では不透明だが)、駐車もバイクに準じる扱いになれば、街中での機動性も格段に高まる。

 国土交通省も「超小型モビリティ」という新たな車両区分を導入すべく旗を振っている。

軽自動車未満で二人乗り程度の超小型車(125cc以下)に限定し、高速道路を走れないことと引き替えに、衝突安全性などの保安基準を緩和して普及を促すというものだ。

 この国交省の規格に沿って各社が開発中の車種の中でも、「i-ROAD」のスリムさは際立っている。たとえば日産「ニューモビリティコンセプト」は全長2340mm×全幅1230mm×全高1450mmで、車幅が「i-ROAD」より36cmも大きい。

 地方では、大人1人に車1台が必要なのが実情だ。しかし農家のように広い家ばかりでもなく、2台目、3台目の駐車スペースと、車の維持費が悩ましい問題となっている。「超小型モビリティ」がその2台目、3台目の受け皿となり、(暫定で軽自動車扱いの)維持費に優遇策が取られれば、家計負担の軽減も期待できる。

 しかも、「i-ROAD」はバイク並みの車格だ。もしもバイク扱いで駐車できるなら、休日のショッピングモールの入庫待ち渋滞などとも無縁となり、“生活の足”としての魅力は格段に高まる。

 ただし気になるのは、「超小型モビリティ」がたいてい電気自動車で、航続距離と車両価格に不安があることだ。仮に市販されても、利用は自治体や企業にとどまるのではないか?

 そこで目を転じると、この規格にぴったりの車両区分が、じつはすでに存在する。125cc以下の小型二輪車だ。原付二種だから高速道路は不可だが、国道バイパスの流れに乗ってなお余力があり、2人乗りも可能で、任意保険にはファミリーバイク特約が利用できる。

 もちろんバイクだから雨に濡れるし、転倒事故の可能性もある。しかし“三輪”ならばどうだろう。トヨタ「i-ROAD」の好敵手たり得るのではないか?

圧倒的な安定感!
”三輪”バイクも登場

 このジャンルにヤマハ発動機が2014年9月に投入したのが「Tricity」だ。前二輪が普通のバイク同様に傾くために旋回安定性がきわめて高く、またバイクの弱点である極低速でのふらつきも最小限で済む。停止時に自立はしないが、三輪ゆえの旋回制動性能の高さで人気を集めている(ちなみにこちらも、当サイトに試乗記事があります)。

 走行や駐車でのバイクの強みをほとんど損なわず、バランス面での弱点は大幅に改善した。それが、三輪ならではのメリットというわけだ。

 配達スクーターのような屋根をつけることで風雨をしのげるようにした車種もある。伊アディバ社の「AD tre」は、排気量200ccからと一つ上のクラスにはなるが、ヤマハ「Tricity」と同じく前二輪が傾いて旋回するし、ウィンドスクリーンがハンドル先端まであるので風の巻き込みも非常に少ない。

「個人的見解ですが、乗り味はバイクでも、安全性の点から言えば二輪の比ではないので、普通免許の人に乗らせても良いのではないでしょうか。スーツで乗れる全天候型バイクとしてはお勧めの1台になりそうです。ただし、ヘルメットは被ってほしいですね、バイクですから」

 東京都江東区砂町で「ムラカミモーターサイクルズ」を経営する村上勇氏は、試乗の感想をそう語る。

 ヤマハ「Tricity」のような小型二輪車(AT限定)の場合、免許を取るには1週間ほど教習所に通わねばならない。

 しかし三輪タイプは、二輪にはない安定感があるのだから、たとえば「三輪AT限定」という新たな区分を設けて、土日の2日間で免許が取れるなどとすれば、潜在需要を掘り起こす効果は大きいのではないか?

 ただし無闇な規制緩和は危険でもある。じつはこの種の三輪スクーターは、10年9月までは日本でも普通免許で(さらにヘルメットなしでも)運転できた。それゆえ伊ピアジオ社のMP3シリーズがオープンカー代わりとして大きな人気を集めたが、二輪経験のない操縦者による事故が相次いだため、法規制が改められた経緯がある。

 これは欧州など諸外国でも同様で、軒並み二輪免許必須となっている。米カリフォルニア州や香港、ニュージーランドなど自動車免許で運転できる地域もあるが、例外的だ。

 村上氏の先の発言にもあるように、たとえ三輪でもバイクはバイク。転倒や事故の際には生身のライダーが放り出されるのだから、ヘルメットは絶対に必要だ。

富裕層に絶大な人気!
車に近い三輪モデルは「手の届くオープンカー」

 では、同じ三輪でも大きく自動車に近づけた車種ならどうか? 前述の伊アディバ社が15年の東京モーターサイクルショーで世界初公開した「AD Spider」は前二輪のトレッド幅を1080mmと広く取ることで、法規制の面でも、走行感覚でも、自動車と同様に普通免許で運転できるようにしたモデルだ。

「開発のメインターゲットは、ずばり日本です。この車種は旋回時に傾かないので、年配でオートバイを卒業したけどスポーツ走行は楽しみたいという方にぴったりです」(アディバ株式会社 広報宣伝担当 伊原光晃氏)

「AD-Spider」の車格になると、「超小型モビリティ」のライバルという位置づけからは外れるが、大人の趣味のセカンドカーとしてはぴったりだろう。

 ホンダ「S660」、ダイハツ「コペン」、マツダ「ロードスター」など小さなオープンカーが人気になっているが、そうした需要の受け皿ともなりうるかもしれない。

 カナダのスノーモービルメーカーCan-Am社が製造する「Spider」は排気量1330ccとさらに大型のモデルだが、三輪タンデムスタイルゆえの解放感と独特の乗り心地、そして高級感を併せ持つ、一種のオープンカーとして富裕層から絶大な支持を集めている。

 ヤマハ「Tricity」のように「一家で3台目の軽四の代わり」となりうる三輪スクーターも、アディバ「AD-Spider」のように「手の届くオープンカー」としての三輪も、どちらも注目に値する。

 1964年の東京オリンピックの頃には、オート三輪という貨物車が街中を走っていた。そして20年のオリンピックの頃には、新たな“三輪”が街のあちこちを走っているかもしれない。

(待兼音二郎/5時から作家塾(R)

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