ポイント
●少子化を理解する上で、出生願望の実現を妨げる要因を明らかにすることが重要です。本研究は、交際していないこと、またその期間の長さが出生願望の修正にどう影響するかを、日本を対象に検証しました。

●分析の結果、調査時に子どもがいない人のうち、交際相手がいない人は、交際相手がいる人、同棲している人、結婚している人に比べて、出生願望に対する回答が「欲しい」から「わからない」、「欲しくない」へと変化しやすく、特に「欲しい」から「わからない」への変化が顕著であることが明らかになりました。こうした変化は非交際期間の長さよりも、非交際になってからすぐに現れました。以上の結果は、交際相手がいないことが出生願望の実現を妨げている可能性を示唆しています。
●調査期間中ずっと非交際だった人のうち、女性の28%、男性の21%は出生願望が「欲しい」と答え続けている一方、「欲しくない」と答え続けているのは女性の10%、男性の7%にとどまりました。


■研究の概要 
スペイン、ポンペウ・ファブラ大学の茂木良平研究員、学習院大学の麦山亮太准教授、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンのAlyce Raybould研究員らの研究グループは、交際相手がいない人は、出生願望を下方修正する傾向にあることを明らかにしました。


少子化という現象をよりよく理解するために、出生願望※1がなぜ実現されないのかを分析することが不可欠です。従来の研究では、結婚や同棲をしていることが出生願望を高めるとされていましたが、交際の有無に関しては十分な検討がなされてきませんでした。日本では、18~34歳の未婚者の約7割が交際相手を持たないという現状を踏まえると、交際相手の有無や非交際期間の長さが出生願望にどのような影響を与えるかを明らかにすることは重要です。


本研究では、2009年から2023年にかけて実施された東大社研若年・壮年パネル調査※2を用い、固定効果モデル※3によって分析を行いました。その結果、交際相手がいないと、交際相手がいる、同棲している、あるいは結婚している場合に比べて、出生願望に対する回答が「欲しい」から「わからない」「欲しくない」となりやすく、特に「わからない」への移行が顕著でした。こうした変化は、非交際期間が長くなるにつれて徐々に強まるというよりは、非交際状態になってからすぐに現れる傾向がありました。また、交際や配偶関係の有無に関わらず、現在子どもはいないが出生願望を持つ人が多いこともわかりました。



以上の結果は、交際自体が出生願望の形成に重要であることを示すと同時に、意図せずに子どもがいない状態にいる人が多くいること改めて示しました。


本研究成果は、2025年8月5日(米国東部時間)に国際学術誌「Social Forces」のオンライン版に掲載されました。


■研究の背景 
少子化は全ての先進国で進行していますが、人々が理想とする子ども数は約2人と大きく変化していません。これは、希望していても何らかの障壁により子どもを持てない人が多くいることを示しています。中でも子どもがいない人(無子人口)は、理想と現在の子ども数のギャップが大きく、無子人口の増加が出生率の減少に大きく影響していると報告されています。このような背景から、「子どもが欲しいかどうか」という出生願望が、どのような要因によって変化するのかを、特に無子人口において理解することは重要です。


これまでの研究では、配偶関係や同棲の有無が出生願望に与える影響は明らかにされてきましたが、交際相手の有無や非交際期間の長さが出生願望に及ぼす影響については十分な検討がなされていませんでした。日本は無子人口の割合が世界で最も高く、同棲がさほど浸透しておらず、また未婚者の約7割は交際相手がいないことを踏まえると、日本における交際行動と出生願望の関係を明らかにすることは、少子化の理解と対策において極めて重要です。


■研究の内容 
本研究では、2009年から2023年に実施された東大社研・若年壮年パネル調査(JLPS)を使用し、20~49歳の子どもを持ったことのない男女を対象に分析を行いました。パートナー状況は「結婚」「同棲」「非同棲の交際相手あり」「交際相手なし」の4分類、出生願望は「(子どもが)欲しい」「わからない」「欲しくない」の3段階で評価しました。固定効果モデルという統計分析手法を用いて、調査年ごとのパートナー状況と出生願望の時間変化を追跡し、パートナー状況の変化が出生願望の変化に与える影響を分析しました。


その結果、交際相手がいない人は、他のパートナー状況にある人よりも、出生願望が「欲しい」から「わからない」、「欲しくない」へと変化しやすく、特に「欲しい」から「わからない」への変化が強く見られました。
この変化は交際していない期間が長くなるほど大きくなるわけではなく、非交際になった年に最も顕著でした。


また、調査期間中ずっと非交際だった人のうち、出生願望が「欲しい」と答え続けた割合は女性の28%、男性の21%だった一方で、「欲しくない」と答え続けた割合は女性の10%、男性の7%にとどまりました。


以上の結果から、交際自体が出生願望の形成に重要であることを新たに示すと同時に、意図せずに子どもがいない状態にいる人が多くいることを改めて示しました。


■今後の展開
本研究は、交際相手の有無が出生願望の変化に与える影響を明らかにし、特に交際相手がいない状態が出生願望の不確実性を高めることを示しました。また、交際や配偶関係の有無に関わらず、現在子どもはいないが出生願望を持つ人が多いことも再確認されました。


これは、交際相手がいない人たちが出生願望に対して抱える心理的・社会的障壁を理解するうえで重要な知見です。交際というライフイベントが出生願望を形成する上で重要な要素であることを示唆しています。


今後は、こうした知見をもとに、「未婚者への支援」と一括りにせず、未婚者の中でも交際相手がいる人といない人で違いがあることを理解し、希望していても子どもを持てない人への支援が求められます。また、他国との比較研究を通じて、文化や制度が出生願望の変化にどのように影響するのかを探ることも期待されます。


■発表者
茂木良平 ポンペウ・ファブラ大学 政治・社会科学学部 研究員
麦山亮太 学習院大学 法学部政治学科 准教授
Alyce Raybould University College London, Centre for Longitudinal Studies Research Fellow

■論文情報
論文名:Exposure to non-partnership and fertility desires among childless population in Japan
雑誌:Social Forces
著者名:Ryohei Mogi, Ryota Mugiyama, Alyce Raybould
URL: https://academic.oup.com/sf/advance-article/doi/10.1093/sf/soaf123/8222480
DOI:10.1093/sf/soaf123

■研究助成
本研究は下記の支援により実施されました。
・MICIU/AEI/10.13039/501100011033 and the FSE+ for the project: JDC2022-049247-I and Programa d'ajuts postdoctorals Beatriu de Pinós del Departament de Recerca i Universitats de la Generalitat de Catalunya: 2023 BP 00026
・日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金・特別推進研究(JP25000001, JP18H05204)、基盤研究(S)(JP18103003, JP22223005)


■用語解説 
※1 出生願望
出生願望はfertility desiresの日本語訳で、「いつか子どもを持ちたいという個人の希望」をより正確に反映すると考えられています。出生意向(fertility intentions)もよく使われる指標ではありますが、出生願望は出生意向よりも変化しにくいとされる指標です。


※2 固定効果モデル
同じ人を複数年にわたって追跡するデータを用いて、その人自身の変化に着目する統計手法です。

※3 パネル調査
同じ人に対して定期的に繰り返し行う調査のことです。今回用いた東大社研若年壮年パネル調査(https://csrda.iss.u-tokyo.ac.jp/socialresearch/
)は、2007年から日本全国の若年・壮年層を対象に継続的に実施されており、人々の生活や意識の変化を長期的に観察することができます。


▼本件に関する問い合わせ先
学長室広報センター
TEL:03-5992-1008
FAX:03-5992-9246
メール:koho-off@gakushuin.ac.jp


【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/
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