カルビは、うまい。

網や鉄板の上で焼かれ、火の通った脂のにおいが広がってくる。

ほどよい頃合いで、口の中に入れたときに広がるジュワッという肉汁。やっぱり焼肉界の王様は、こいつだろう。ジュー。

そんなとき、ふとこう思う。
こんなにうまいカルビ、ステーキのようなでっかい肉のかたまりとして食ってみたら、さぞうまいんじゃないだろうか。アツアツの鉄板の上で湯気をたてるでっかいカルビ、これをナイフとフォークで切り分けて、大きくあけた口の中へ……実にうまそうだ。

それなのに、カルビのヤツときたら、ほとんど焼肉店にしか存在しない。ご存知の通り、ステーキ店にあるのは、ほとんどがサーロインとヒレ。カルビをステーキのメニューとして、ぜひ採用しようではないかという議案が、ステーキ界でのぼったことはないのだろうか。

ここでまず、カルビのことを、もう少し知ってみようと思う。
日本での牛肉の部位を表す分類ではまず、「カルビ」という肉は、存在しない。
農林水産省が定めた「食肉の小売品質基準」によると、牛肉の部位は、大きく以下の9種類に分類される。

「かた、かたロース、リブロース、サーロイン、らんいち(らんぷ)、ヒレ、そともも、もも、ばら」
じゃあ、カルビはどこにいるの? というと、いわゆる「カルビ」は、主にバラ肉の部分にあたる。ご存知の方も多いかと思うが、「カルビ(カルピ)」は韓国語で「肋骨」の意。つまり、肋骨周辺の肉ということなのだ。分類上はバラ肉だけど、「カルビ」という名称で呼ばれるのは、やはり焼肉のベースが韓国料理だということの影響は大きいだろう。

ここで、「骨付きカルビ」のことをちょっと思い出してもらいたい。ハサミでカルビ肉のところを切り分けながら食べる、ああいう部位なわけだから、“分厚いカルビ肉”というものを切り出すことは、現実的にはなかなか難しいのである。
夢想だったか……。

それでも、もしそんな“分厚いカルビ”が存在したとしたら……。食肉の格付けを執り行っている日本食肉格付協会に聞いてみたところ、味の方面からのアプローチもあった。
「いわゆるカルビは、バラの部分で、主に『中バラ』の部分が焼肉用として使われることが多いです。ただ、印象としては、どうしても脂が多いので、ステーキなどの調理法には適していないのではないでしょうか」
カルビの脂分は、あのぐらいのボリュームだから、おいしく感じる。それが、たとえば200グラムとかに拡大された場合、やはり、うまみよりも油っこさのほうにやられてしまうということだ。

そしてやはり、
「どうしても薄くなってしまいますので、ステーキ肉にはなり辛いですね」
と、もうひとつの致命的欠陥を指摘されてしまった。

そのあと、あるステーキ店にもたずねてみたが、
「ステーキでカルビ!? いやぁ、油っこくなって無理でしょう。焼肉で食べるのが一番ですよ」
と言われてしまった。

「カルビのif」について考えてみたが、結局カルビステーキ化計画は、ペーパープランにすぎませんでした。
行くか、焼肉屋。
(太田サトル)