韓国の赤ちゃんは、無事に生まれたからといっても休む暇もなく忙しい。生まれて間もない内に、100日目を祝う「ペギル」と、1年目を祝う「トルチャンチ」という、ふたつのビッグイベントが待っているからだ。

 特に後者のトルチャンチは、親戚同士で食事会を行って祝うことの多いペギルに比べ、お客さんも必要経費も多いメインイベント。先日、このお祝いに初めて参加したのだが、子供のお誕生日とは思えない豪華さ、そして慌しさに、カルチャーショックを受けてきた。

「結婚式より楽だろうと思っていたのですが、全然そんなことはなかったですよ」と、韓国人のご主人と結婚した日本人女性のAさんは話す。
会場となったのはビュッフェ形式の食堂がある、ちょっとした式場だ。18時からと書いてあったので18時ちょうどにあわてて行くと、家族以外にお客さんはおらず、私が一番乗りであった。入り口で芳名帳に名を記し、お母さんに直接プレゼントを渡す。昔は金の指輪がトルチャンチのプレゼントの定番だったが、金が値上がったこともあり、最近は子供の服をあげたり、あるいはお金(相場は5万ウォン、1万ウォン=755円)を包んで渡すのが基本となっている。

受付で、「○○ちゃんの今日の体重は」「(似たような赤ちゃんの写真が並んでおり)○○ちゃんはどれ?」といった簡単なクイズに答え、ビュッフェで豪華なおかずをセルフで選びながら、席について食事を始める。
140人ほどのお客さんが集まり、いよいよ式が始まったのが19時を過ぎてのことだ。司会者の小粋なジョークとともに、韓服を着たご夫婦と赤ちゃんが登場。一同で赤ちゃんのために誕生日の歌を歌った後(ハッピーバースデーの曲のメロディーは日本と同じである)、ご夫婦と赤ちゃんが、ケーキにささったろうそくの火を吹き消す。司会者の「○○ちゃんの健康を祈って」の声とともに、ビールや焼酎のコップをかかげた大人たちが、「コンベ(乾杯)!」の大合唱。
大量のアルコールが飲み干された。
その後、赤ちゃんの1年間の歩みを紹介するスライドショー(!)が上映される。ところどころで受付の際に行ったクイズの答えが発表され、正解した人はプレゼントをゲットしていた。

お次はトルチャンチのクライマックス、「トルチャビ」だ。トルチャビとは、お金、糸、鉛筆などのアイテムを赤ちゃんの前に並べ、彼または彼女がつかんだものから将来を占うというもの。この日準備されたのは、お金(お金持ちになる)、糸(長生きできる)、鉛筆(学者になる)、絵筆(画家になる)、泡立て器(コックになる)、マイク(歌手になる)、聴診器(医者になる)、マウス(IT関係の仕事に就く)の8アイテムだった。IT関係の企業に勤めるお父さんは「マウスを取ってほしいですね」と言っていたが、お母さんは「マウス以外がいいです」と言い、会場に笑いが沸く。

赤ちゃんはこれらの物を前に困惑、少々ぐずりぎみだったが、とうとうつかんだ(と言うより触った)アイテムは聴診器だった。司会者の「有名な医者になることでしょう」の一言で、拍手喝さい。その後、抽選によるプレゼント大会が行われ、最後にお父さんから訪れた人への感謝の一言が述べられ、トルチャンチは終わった。ボリュームたっぷりの40分であった。

お母さんのAさんによると、今回の式で使用した額は500万ウォン以上。
親戚が近所に多く、通常のトルチャンチよりも倍近い人を呼んだため費用はかかったが、クイズやイベントを自分たちで作らず、業者に任せていたらもっとかかっただろうと話す。
「何が大変だったかって、親戚への挨拶まわりですね」とAさん。「これはもう、大人のためのイベントですよ。子供は綺麗な服を着せられてハイハイもできないし、夜だから眠くなるし、ぐずりっぱなしでした」と話すが、大人のためのイベントと考えれば、赤ちゃんの誕生日に大量のお酒が酌み交わされるのも納得が行くし、このトルチャンチは大成功だったと言える。
「親戚たちは久しぶりに集まることができて、大喜びだったみたいです。娘が旦那そっくりだって笑ってました」

何かにつけ家族を大切にする韓国人の気質が、この伝統儀式を続けさせているのだろう。「子はかすがい」という言葉は、夫婦間だけでなく家族にもあてはまる。
(清水2000)
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