イベント列車「海列車(パダヨルチャ)」が、韓国で人気だ。江陵(カンヌン)駅から三陟(サムチョク)駅まで、朝鮮半島の東海岸58キロメートルを走るこの列車は、シートが全て海側を向いており、目の前に広がる大海原を思う存分堪能できるのが特徴。
2007年8月の登場以来、先月までに24万人以上の乗客を集めており、特に週末は予約しなければ乗れないほどの盛況振りとなっている。

ところで、シートが全て片側の窓を向いている列車なら日本にもあるよ、とおっしゃる方がいるかもしれない。先日、海列車を利用する機会があったのだが、実際に乗ってみると予想以上に韓国的なエッセンスが詰まっており、韓国ウォッチャーである私は非常に興味深かった。以下、私の主観を踏まえて見どころを紹介したい。

見どころ1 「プロポーズ室がある」

海列車の路線はそれほど長くなく、始発から終着まで1時間20分の行程であるが、その短い間にも乗客を楽しませる仕掛けがふんだんに盛り込まれている。そのひとつがこの「プロポーズ室」だ。
プロポーズ室とは2人専用の、別料金の個室。小さいながらもラグジュアリーな造りとなっており、料金にはワインや記念写真も含まれる。なお、外から見るとプロポーズ室の窓まわりだけ、カップルを連想させる絵が描かれており、たった今プロポーズしているのだなと外野の人にも明快で、ちょっと恥ずかしい気がしないでもない。
海列車事務局によると、「この部屋でプロポーズするカップルは実際に多く、また、カップルではない方のご利用ももちろんOK」とのこと。なお、私がプロポーズ室をちらっと覗いた時は、中年のおじさん二人が座っていた。

見どころ2 「車内放送がDJ風」

いよいよ海列車が発進すると、この列車が単なる移動手段ではないことを改めて知る。
車内放送(韓国語)が、やたらノリノリなのだ。「乗客の皆さん、愛してます!」「本日はご乗車いただき、とーっても感謝!」といったニュアンスの熱い放送が繰り広げられる。
さらに我々乗客は、携帯電話からメールを送ることで、聴きたい曲をリクエストできる。曲名とともにメッセージを添付することも可能で、「今日は○○さんの○○記念日!」といったコメントが放送された。これはまさにラジオDJだ。
ある時は車内のモニターに乗客の姿がぱっと写り、「画面に映ったみなさん、手を振って!」と言う。もちろんノリノリで応える老若男女の韓国人たち。そのテンションの高さに、見知らぬ人たちと遠足に来たような、新鮮で楽しい気持ちになる。
事務局によると「車内放送は、特別にDJを呼んでいるわけではなく、乗務員が話しています」ということ。いやはや、乗務員さんの多芸ぶりには驚きである。

見どころ3 「海を見逃しそうになるほど(!?)盛りだくさんのイベント」

その後もお楽しみイベントが続々登場。ある時はビンゴカードが回ってきたのだが、一気に5つぐらい数字を言うものだから展開が早い。
手元の数字に集中しているうちに、目の前に大海原が。いや、今は海を見ている場合じゃない(!?)とビンゴに専念する私。
車内イベントだけでなく、世界一海岸に近いということでギネスブックにも載る正東津(チョンドンジン)駅で下車し、散策することができたり、また統一公園の前を通りがかる時は、わざわざ列車が一時停車、海岸に展示された本物の戦艦を車窓からじっくり眺めることができたりと、様々なお楽しみが満載で、少しも飽きることのない(休む暇もない)1時間20分であった。

しかしこれだけイベント満載だと、この列車に乗って毎朝通勤する人は大変ではないか(江陵~三陟の全区間を走る車両は海列車のみ)。もうビンゴは勘弁してよ~と言っているかもしれない。事務局に聞くと、「通勤で海列車を利用される方は、まずいらっしゃいません」とのこと。まあ、そうですよね。

海列車は1日3往復運行、料金は一般席10,000ウォンから。海列車の始発・終着となる三陟という町は以前、「韓国の田舎の港町にドラゴンボールがあった」という記事で紹介した、隠れた見所いっぱいの町でもある。ソウルからは少し遠いが、普通の韓国旅行では物足りない人は、特別な思い出をつくりに海列車にチャレンジしてみてはいかがだろう。
(清水2000)
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