昨日、発売された『2択思考』の前書きにこんな一文があった。著者は編集者・石黒謙吾。
心が見えるようになるってホント?
そもそも『2択思考』とはなにか。第1章では「私たちは日々、数百~数千の決断を繰り返している」という項目がある。例えば居酒屋のメニューから注文を選ぶのにも「嫌いなものを振り落とす」2択を繰り返した先にあるものであるように、あらゆる日常は、選択・決断の積み重ねで成り立っている。そもそもの選択肢は膨大にあり、そのひとつひとつを意識することで、「決断が早くなる」「自己分析ができるようになる」「会話のセンスがよくなる」「人の心が見えるようになってくる」という。ふむ。『2択思考』ができるようになっておいてソンはなさそうだ。
2択において、ハードルを上げすぎてはならない
そこで早速、知人と待ち合わせたバーでこの『2択思考』を試してみた。本を開くと「オーダーに迷ったらトーナメント方式で」と書いてある。「甘い←→甘くない」「ガブガブ飲める←→ちびちび飲む」など自分なりの基準を決めて、甲子園のようにトーナメントを行い、優勝校を頼めばいいってことか。おあつらえ向きに、目の前にはものすごい数のリキュールやウイスキーが。ビールや焼酎、日本酒まで数百種が並んでいる。
しかし数十秒後、僕の上げた第一声は「ビール!」。あまりの選択肢の多さに、脳の回路が白煙を上げてショートしてしまい、結局「いつもの」になってしまった。まるでダメである。まず、体が欲するものに絞ればよかったのに、選択肢を広げすぎたのか。そういえば『2択思考』にも「基準を『公式化』させていれば、候補のものをスススと絞り込み(中略)素早く決められる」と書いてあった。ビールは旨かったが、『2択思考』では絞り込む過程にこそ意味がある。そう、「2択思考」を実践するとき、無闇に選択肢を増やしすぎてはいけない(ようだ)。
基準は常に変わり続けるものである
たいしてつまみも食べずに、軽く飲んだらかえってお腹がすいた。こんなときにはラーメンというのが定番だ。場所はラーメン激戦区とも言われるエリアなので、ラーメンなら選び放題です。今度は基準を公式化して、「気分はあっさり」だったので「醤油←→味噌←→塩」から醤油をセレクト。
2択思考とはアントニオ猪木なのか?
と、いくつか軽い失敗を繰り返したところで、はたと気づいた。仮にこの先似たようなシチュエーションに出くわしたとしたら、自分はもう少しマシな選択ができるのではないか。あ、そうか。
アントニオ猪木というプロレスラーは現役を引退するとき「道」という詩をリング上で読んだ。「この道を行けばどうなるものか?」で始まるこの詩はあまりにも有名だ。しかし、じつはこの詩に入る前フリが素晴らしいことは、あまり知られていない。
「人は歩みを止めたときに、そして挑戦を諦めたときに年老いていくのだと思います」
逆から言うと、歩みを止めず、挑戦を諦めなければ、人が老け込むことはないということ。ちょうどこの原稿を書いている途中でTwitterを覗くと石黒さんが都心近郊の書店へのあいさつ回りに駆けずり回っていた。カリスマ編集者と言われる人が自らの足で「1日20軒」という目標に果敢に挑んでいる。その行動力の源泉を知りたいと思う人はもちろん買ってソンはしないはず。