そこでぼくは考えるね。
「この景色の中に女の子がいたらさらに最高なのにな」とね!
岡山県倉敷市を舞台に、それをやってのけたマンガがあります。拓(たく)の『めくりめくる』という作品です。
この表紙見てくださいよ。これただの倉敷の駅の光景なんです。倉敷舞台作品の表紙なんだからもっと派手なところ選べばいいのに!とも最初思ったんですが気づいたら手にとってレジに並んでいました。
手前にいるふわふわした薄い色の髪の毛の女の子とショートの子はどんな関係なんだろう? 左端でニヤニヤしているツインテールの子と男の子は何を話してるんだろう? 右端で少女は誰に声をかけているんだろう?
ワクワクしながらページをめくると、中には倉敷の光景がいっぱい詰まっていました。といっても観光パンフレットと違うのです。確かに風光明媚な倉敷らしい景色もありますが、どうでもいい町の様子の方が多いんです。ひょろっと目を向けたところに見えるなんでもない景色ですよ。
少年少女たちが童心にかえって制服のまま海に飛び込む場面や、阿智神社で友達がほしいと願う内気な少女の独り言のシーンは、非常に倉敷的。
雨の住宅地を憂鬱そうに少女が歩くシーンなんかは、観光スポットでもなんでもありません。誰もがごく見慣れた風景でしょう。しかし倉敷ならではの季節感と、さまざまな表情の女学生達が描きこまれることで、モノクロのマンガなのにまるで色がついているかのように脳内で再生されるんです。
『めくりめくる』が描くのは、倉敷観光ではなくて「ここに住んでいる少女達の目で見ている町」の風景です。だから住宅地や駅など、自分達の行動半径が基本的な視界の範疇。海や神社や観光地は彼女達にとってちょっと特別だから、そこに行く時は心がどきどきしちゃう。どきどきするから、物語が生まれる。
「学生の目から見た町」の描写が強調されているので、読み進むにつれて、自分もこの町に住む少年少女の一人になってしまいます。ふと目をあげた時、自分の視界の中に飛び込む女学生の姿。
特に劇的な物語は一切おきません。他の人から見たらささいに思える悩み事を抱えた女の子達が「私にとっては大事なんだよ!」と倉敷の町の中で話している。ちっちゃな事件がキャラを変えて、オムニバス形式で描かれます。
おそらく視点が一致する高校生には、非常に心にスーッと入ってくる作品でしょう。学生時代を終えた大人からは、町の中で自分達の青春を謳歌している子達が眩しくてしかたないはず。これはそうだ、憧れだ。
カメラを構えて町の写真を撮る時、そこに女子高生がいたらいいなと願うのは、写真の中に物語が生まれるから。彼女達の視線に近づきたいと感じるから。決して派手ではないですが、誰もが持ちうるそんな思いを丁寧なタッチで描きあげる『めくりめくる』は、様々な角度からノスタルジーを刺激してくれるので読み終わったあと充足感で溢れること間違いなし。個人的には友達が出来ずに神社で悩む女の子にグッと来ちゃいましたよ。くそうかわいいなあ。
実際に倉敷市では『めくりめくる』とのコラボで観光イベントを組んでいるようでこちらの今後の展開も興味深いです。
えー、地方都市の皆様。「綺麗な写真」にとどまらず、思い切ってこういう「女子高生から見た町の様子」を少女達の姿と共に描いたマンガを観光パンフレットにするっていうの、新鮮でありだと思うんですがどうですか?(たまごまご)