(最新作『ロードサイド・クロス』のレビューはこちら/講演録part1)
■再びアウトラインを考える
2ヶ月間に渡ってアウトラインを書き続け、相当量の散文を書きためてきました。200〜300ページ分くらいの本にはなりそうです。しかし、アイディアがあり、ワープロが手近にあるからといって何でもかんでも本にするべきではありません。これは「レバー味の歯磨き粉」なのです。300ページ分もの原稿を捨て去るのはとても辛いことです。しかし、30〜40ページ分のアウトラインなら、くしゃくしゃにして捨ててしまうのはさほど難しいことではありません。
ということで「206の骨を使う」というアウトラインは捨てます!
さて、1番目のルール「本を書くのはビジネスである」は、今でも有効です。私は「来年の11月15日までに本を出す」という出版社との契約を履行しなければいけません。
はじめからやり直しです。
例えば、こんなストーリーです。
テロリストの建築家がいて、自分が建てた建築物にある欠陥を加えます。ビルが完成してから1〜5年くらい経ったところで崩壊し、中にいた人が死にます。
捜査にあたる警官はある建築家をアシスタントにし、テロリストの建築家の正体や犯罪計画を探ります。
“驚きのエンディング”として、このようなものはどうでしょうか。
もともと欠陥を仕込んだテロリスト兼建築家をA、アシスタントとして雇った建築家をBとします。
(1)建築家Aと建築Bはじつは同級生で、古くからの知り合いだった。
(2) 建築家Aはじつはテロリストではなく、不動産カルテルの一味だった。目的はテロではなく、ビルが崩壊した後に安くその土地を買い叩こうとしていた。
(3) 建築家Aと建築家Bは同一人物だった!
私の本を読んでくださっているみなさんはよくご存じだと思いますが、3つくらいの“驚きのエンディング”では終わりません。ここで最後のビッグ・サプライズ!
(4)一時は不動産カルテルの一味だと思われていた建築家A(=建築家B)だったが、じつはテロリストだった。
とはいえ、ディーヴァーの本ですから、最後はハッピーエンドでなくてはなりません。
(5)最後はその捜査官によって、危機一髪難を逃れます。
これで「ペパーミント味の歯磨き粉」になったのではないでしょうか。
■“言いたいこと”があれば、必ず書ける
アウトラインが出来たということで、グッと前に進みます。本を書き始めなくてはいけません。方向性はもう決まっていますから、短時間で書きあげることができます。アイディアズが枯渇することはあっても、ライターズ・ブロック ー ー書き手がスランプに陥ることはないのです。
言いたいことや表現したいことがあれば、必ずそれは何らかの形で書けます。
書き手にとってもっとも重要なのは「言いたいことがあること」です。
すでにアウトラインができあがっているため、どのような順序でも書けます。
「書く」という行為は感情に大きく左右されます。朝、目覚めると外は晴れ、素晴らしい天気の中、小鳥がさえずっている。そんな日には殺人を犯す気にはなれません。中には『どんな日であっても殺したい!』という人もいるかもしれませんね(笑)。
ただ、8時に下水道工事がやってくると言っていたのに、午後になっても現れないようなとき……下水道工事の担当者が次なる殺人鬼の餌食になります。
ともあれ、アイディアがしっかりしていて、アウトラインができあがっていれば、スランプになる心配はありません。だいたい2か月もすれば<第一稿>が完成します。
■第一稿が完成!
その頃にはタイトルもできあがっています。
ちょうど今、みなさんと書いている本も、良いタイトルを思いついています。
『死のための青写真』(「BLUEPRINT FOR DEATH」)
どうですか。恐いでしょう?(笑)
さて、できあがった第一稿を出版社に手渡します。
というのも、本はまだできあがっていないからです。
どのような小説であっても、第一稿は二つの要素から成ります。まず第一に「長すぎる」、そして第二に「下手だ」ということです。
最近ではコンピュータがありますから、気が向くままに散文を書き続けることができます。
手書きあるいはタイプライターで原稿を書いていた1940年代に比べると、本のボリュームは平均すると30〜40%増えています。コンピュータのおかげで書きやすくなってしまったからです。
よくこんな風に言われます。
「素晴らしいライター(writer)はいない。素晴らしいリライター(rewriter)がいるだけだ」(アーネスト・ヘミングウェイ)
彼の作品がみなさんのお気に入りかどうかは知りません。しかしながら、彼の散文をとりまとめる能力は、まさに職人技です。
さて、私たちの本を編集しなくてはなりません。
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