ある村で聖職者が死に、その葬式に生前、死者と交流のなかった息子がやってくるところから物語は始まる。村人の様子が変なことに気づいた息子は父の死に疑いをもち、調査を始める。
すると、驚くべき事実が……。

とてもミステリアスな始まりだ。このあとも、謎が謎を呼び、ハラハラドキドキの展開が待っている。物語だけでなく、村のセットもまるごと作ったという、かなりの大作でもある。しかし、ワシはこの映画のキモは、そんなところにはないと思う。とにかく、村人が不細工! 不細工すぎる! しかも、自分の知ってる誰かに似てる!

実は、韓国映画はそんなに観てない。「グエムル」「渇き」、そしてこの「黒く濁る村」だけだ。なんで、「グエムル」と「渇き」と続いたかというと、主演のソン・ガンホという役者を「グエムル」で見て、「なんだか自分に似てるなあ」と思ったからだ。ソン・ガンホファンの方、失礼します。しかし、自分っぽい人が大画面で演技してるのを見るのは、とても奇妙でおもしろかった。

なにがいいたいか?

韓国映画の登場人物は、たとえばハリウッド映画に比べて、圧倒的に日本人に似てる。

当たり前だ!

でも、なんだか違う。
日本だと映画に出ないような、つまり、二枚目っぽくない人が、けっこう主役をやってたりする。これは、二枚目が不足してるということではなく、顔の価値観が違うためだろう。だから、キムタクがやるような役を江頭2:50似の人がやるというような、よくわからない映像になる。これが、おもしろい。

主役は、さわやか系の男前なのだが、これまた微妙な印象。大阪府知事にも似てるし、よゐこの濱口にも、オザケンにも似てる。その相棒的存在の検事は、ビビる大木を縦にのばしたような人だが、かなりかっこいい役どころ。そして、上戸彩をアク抜きしたような美人がヒロインとして登場する。

それを囲んで、とてつもなく不細工な連中が力のある演技を見せる。最初、村人があまりにブサイクなので役者本人に同情しかけたが、過去の映像で、おそらくこっちが素であろう若い顔で登場すると、それほどブサイクではない。つまり、メイクがすごいのだ。

これだけ演技できるなら、「メイクせずに演技だけで見せよう」と考えてもいいように思うが、より、こってりと塗り固めるのが、監督の方針なのだろう。
それどころか、同じ人物でも、「いい人」に見せたいときと「悪い人」に見せたいときでメイクを変えている節がある。繊細にやってるので断言しづらいが、ラストシーンはおそらくそうだ。

特殊撮影やCGがすごい映画はあるが、これほどメイクに力がはいった(しかも不細工な方)映画は珍しい。ヒールとベビーフェイスを「くまどり」で描き分けるという点では、歌舞伎と同じ方法論だ。

ところで、今思い返すと、どんな不細工な人も、みんな歯だけはとてもきれいだった。やっぱ、役者は歯が命! なんだろうなあ。(麻野一哉)
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