気がつけば2002年11月の第1回から、早いもので9年目を迎えた文学フリマは、回を追うごとに出店申込者が増えている。これまでに、渋谷の青山ブックセンター、秋葉原の東京都中小企業振興公社秋葉原庁舎、そして昨年5月の第8回からはPiOと、よりキャパシティの大きい会場を転々としてきた。
今回、エキサイトレビューではライター陣が、これぞという本を1冊ずつ見つけてきて、紹介しようということになった。以下、各ライターおすすめの1冊の紹介に、私のコメント(太字部分)を添えてみた。紹介文にはそれぞれ冒頭に本のタイトルと、カッコ内に販売していたサークルの名前を示している。
■『小学生映画日記』(小学生映画日記)
小学生がかいた映画の感想絵日記……。それだけでも充分キャッチーなのに、なんと作者のマーリーちゃん(小2)が自ら手売り! ちょっと大きめの赤いベレー帽を、ちょこんと頭に載っけて、サインもしてくれる。おまけにたいへんハキハキとした接客。
「ありがとうございます。おなまえはなんですか?」
きゃー! ずるーい! そのキュートなインパクトに、大人たちはメロメロ。ウワサは、すぐに文学フリマ会場に広まった。
「小学生が絵日記売ってるって!」
「マジで!?」
「買ってきた!」
「さっき友達も買ってた!」
結局、文フリ終了を待たず、午後3時前には売り切れ。文学フリマには、もう4回ほど参加しているけど、あとから「買えなかった……」という声を、こんなに聞いたのははじめて。
内容は、こんな感じ。
「わたし うるさいおんがくきらいなタイプだけど、これはぎりぎりすき。こころがあったかくなった」(『かいじゅうたちのいるところ』)
……ウチの娘にもやらせたい。(小沢高広)
私も午後になって足を運んだのですが、やはり完売してて入手できませんでした。マーリー先生の「これはぎりぎりすき」というフレーズが気に入ったので、今度どこかで使わせてもらいたいです。
■『タライdeごはん〜肉じゃがの回』(Cafe Nude)
今回の文学フリマで唯一ジャケ買いしたのが、この本。第一印象はデカっ薄っ。A4サイズ大の表紙いっぱいにごはん、ごはん。巨大なタライを使って料理を作ってみんなで食べる。その様子が紹介されています。
これ、私も買いました。その写真のインパクトだけで即買い。そもそもなぜ、タライで料理をつくろうと思い立ったのかなど、これまでの経緯についてはこちらのサイトにくわしいです。あわせて読むと、さらに楽しさ倍増。
■『夢、十夜』(山羊の木/海岸印刷)
夏目漱石の『夢十夜』を下敷きにした連作短歌集。紐をゆっくりとほどいて読み始めるとき、少しドキドキする。こういう儀式のような読書体験は、手作りの凝った作り本ならでは。海岸印刷さんは、活版印刷な栞や豆本もあって素敵。(米光一成)
電子書籍のオルガナイザーである米光さんが、手作りの本を選んだというのが意外というか、いや、だからこそなのかというべきか。電書と、ものすごく製本に凝った本が同じ会場に置かれているというのは、文学フリマの一つの醍醐味でしょう。
■『紅(クリムゾン)』『白(イノセント)』(まめもやし)
鉛筆で書いた絵をコピーしてまとめただけのゆる〜いイラスト集ですが、とにかく面白いです。よく言えば吉田戦車やうすた京介のような不条理感漂うテイストで、でももっと雑で、バカバカしくて、つい笑っちゃう絵が満載。雰囲気はモーニングで連載している「ポテン生活」に近いかも。メモ帳みたいにページがすぐ取れちゃうし、表紙も手書きと安っぽいけど、こんな手作り感も溢れる本と出会えるのも文フリならでは。巻末には各イラストへのひとことコメントもついていて、これも超下らない! 最後まで徹底して気が抜けきってます。
作者は「まめもやし」という名の二人組。プロフィールなどはこの本にもウェブ上にも一切なく完全に謎。そのせいで余計に興味がそそられます。購入の際に少し話した時は「演劇をやってます」と言ってました。次回作に期待!(田島太陽)
同じ手作りでも、先ほどの『夢、十夜』のように凝った本があるいっぽうで、このように徹底して力の抜けきった本もあるのが面白いですねえ。
■並四ラジオさんでいただいたチラシのようなもの(並四ラジオ)
表は四角い缶、裏はハダカという見た目のラジオを置いているブースを発見。ブース名と同じ並四ラジオというらしい。
売れるとは思わず肝心の本を3冊しか持ってこなかったなんて、謙虚にもほどがあります! ちなみに並四ラジオとは、戦前から終戦直後にかけて数多く製造された安価な大衆ラジオだそうです。
■『kids these days!』(kids these days!)
フリーライターとして活躍している成松哲氏が、高校の文化祭などに出掛け、実際にバンド活動をやっている高校生たちのインタビューをまとめたものです。まさにリアル「けいおん!」とも言うべき企画。プロのライターさんだけあって、自費出版じゃなくても普通に書籍化が出来そうな企画ですね。
わたし自身はアニメファンじゃないので、「けいおん!」のこともあまり詳しくは知らないんだけど、あの作品が青春時代の宝物のような時間のことを描こうとしているのはよくわかる。それと同じものが、この企画にも感じられます。
残念ながら、今回の文学フリマには間に合わずに書物の形にはならなかったけど、とりあえず「準備号」として6ページ分の見本を配布していました。
成松さんは、以前からTwitterでも文化祭などの取材のたびに実況していて、どういう形でまとまるのだろうと思っていました。来年の本編の刊行が楽しみです。
■『ゾンビーム』(ゾンビーム)
一冊全部がゾンビの文芸誌とのことだったので、サークルの場所を狙い定めて買いにいきました。過去から現在に至るゾンビ評論、内臓を落としても笑顔でごまかす美少女ゾンビ、腐りゆく女の観察記、突然ゾンビになって健常者から差別される思春期の男女、ゾンビが跋扈する世界で女の子とほろ苦くサバイブするボンクラ、殺人事件を捜査するゾンビになりかけの女性など、2編の評論、6編の小説、全部切り口が違うゾンビで感激しました! 次が出たらまた買います。(tk_zombie)
映画や深夜アニメなどあらゆるところにゾンビがあふれかえる昨今、文学フリマにもゾンビ本が登場ですか。次号ではぜひ、tk_zombie先生にも寄稿のオファーを!
■『スレイラ神話大全 赤キ狩人』(クラブ・スレイラ)
スレイラ神話をご存知だろうか? 知らない人も多いはずだ。なぜならスレイラ神話は佐藤さんが1から考え、5年の歳月をかけて漫画にした神話だからだ。5年で32ページ。贅沢すぎる。ダイナミックな自由な絵で展開される、自由な話。話の筋とか人気とかを気にせず、好きな物だけが詰め込まれた世界。
その後佐藤さんは漫画を描く事の大変さを痛感し、小説で続きを書いた。そして最新の物だという『エレベーター・ボーイ』も読ませてもらおうとした時、佐藤さんは言った。「あ、それはスレイラ神話じゃないです」。やめたんかい! 僕は信じている。次なる神話の誕生を。(香山哲)
個人的に、自分で神話や偽史をつくってしまう人が大好きなので、この本も気になりますねえ。次なる神話の誕生、私も信じることにします!
では最後に、私からも1冊……
■『フリースタイルなお別れざっし 葬』(フリースタイルなお別れざっし 葬)
タイトルどおり、葬式をテーマにしたミニコミ誌。創刊のきっかけは、編集・発行人のおもだか大学さんが葬儀社に勤めていた頃、結婚専門誌はあるのに、なぜ葬儀の専門誌はないのか? と疑問を抱いたことにあるとか。さすがに現場にいただけあって、本誌のなかで紹介される葬式のハウツーはかなり具体的。
たとえば、バカにならない葬儀の経費をできるだけ抑えるにはどうしたらいいか? その回答として、葬儀社にまかせきりにせず、身内にできることは可能なかぎり身内で行なうようにする(遺体の搬送も、自分たちの車で運ぶようにするとか)という方法が示されている。
このほか、火葬場ルポ、喪服についてのイラスト解説といった連載や、編集者の塩山芳明氏が葬儀についてコラムを寄せていたりと、実用本としてばかりではなく、読み物としても充実している。
余談ながら、このブースでは、エキレビライターの一人・香山哲さんの近著『ランチパックの本』のチラシも配布されており、なぜだろうと思ったら、何と、あの本はおもだかさんが企画・編集したのだと聞いてびっくりした。
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さて、文学フリマ終了後、エキレビライター陣がスカイプチャットで会議をしていたら、『鬼畜! ヤリマン道場』という本がすごかったらしいという話が出てきた。しかしながら、メンバーがそろいもそろって買い逃していて、けっきょく紹介を見送らざるをえなかったのが残念である。みんなで探しまわっても、やっぱりこういう漏れは出るものなんだなあ……。あらためて文学フリマの奥深さ(?)を思い知ったしだいである。
なお、次回の文学フリマは、来年2011年6月12日に今回と同じく大田区産業プラザPiOでの開催予定。さらに11月3日には、東京流通センターに会場を移して開催が決まっている。(近藤正高)