「おお」
「新刊! おもしろかった」
「ありがとう」
「タイトルが長すぎるけど」
「『自分だけにしか思いつかないアイデアを見つける方法―“企画の魔眼”を手に入れよう』自分でもなかなか覚えられない……」
「内容が凄いっすよ! オビに「コツや近道ではない。本当の発想力を身につける王道を学べ。
「ありがとう」
「いやいや、それだけ地味ってことですよ」
「地味?」
「そうですよ。売ろうって思うなら、「この方法でドンドン発想がわきでてくる!」とか、「5分で発想力がつくメソッド!」とか、そういう本じゃないと!」
「だって、そんなのありえないもん。嘘でしょ、そんなの」
「嘘でも、そーじゃないと。最初に、“ちょっとしたコツや工夫でアイデアが湧き出るようになると主張する嘘つき本がたくさん並んでいる。そのような虚妄にすがるのをやめて、体質と環境を整えていく覚悟ができた者だけが、発想と実行の良いループを昇っていくことができる”って書いてあって、ひえー、それ言っちゃおしまいでしょーって驚愕ですよ」
「だって、本当だもん」
「本当でも、いきなり書かないの! しっかりトレーニングしないとダメだって本当でも言っちゃダメ、そんなの売れないから!
しかも、米光さんってプロモーションしないでしょ?」
「やるよー。あ、ブログやってるよ」
「そうそう、あのブログ。あんな手間のかかりそうなことやるなら、もっとがっつりプロモーションにすればいいんですよ」
「どういうこと?」
「だから、たとえばAmazon第一位!って自己啓発本系のプロモーションサイトあるでしょ?」
「なにそれ? 知らない」
「あるんですよ。「Amazon特典一位」とか何とか検索すれば出てきますよ。三大特典!とかって言って「何日の何時までにamazonで予約しろ」ってやっちゃうんですよ」
「あー、なんか見たことあるな。だいたい同じフォーマットでできてるやつでしょ」
「そうそう。たいてい最初に、Amazonランキング第1位獲得!!って、赤字で大きく書いてあって、だらだらと縦に長いの」
「あるねー」
「そういうのやればいいんですよ」
「やーだーよーー。それにランキング1位とかじゃないもん。
「だいじょうぶですよ」
「どういうこと?」
「何とかジャンル一位なんですよ、ああいうのって」
「え?」
「全体の一位じゃなくていいんですよ。リーダーシップ部門でいい。本>ビジネス・経済・キャリア>実践経営・リーダーシップ>リーダーシップって細分化された中の一位ですよ。米光さんの魔眼本も、きっとそこまで掘れば、3部門で1位制覇とかですよ(秘訣1:ジャンル1位でも堂々1位)」
「ものは言いようだねー」
「それどころか、そういうことを考えてジャンルまで変えちゃうって噂ですよ。写真の何とか部門だったら1位とりやすいとか」
「ひえー」
「しかもね、まず強引に1位にすればいいんですよ」
「え?」
「知人や社員を総動員して、特定の時間に買ってもらうんです。これはね、もう著者自身で支払えばいいんです。(秘訣2:自腹でいいから1位を取れ)金は出すから買ってよ、って。Amazonのランキングは短時間集計の影響が強いから、何日の何時にいっせいに買えばOKなんです(秘訣3:瞬間風速で1位を取ればOK)」
「バブリーだな!」
「それで、ぎざぎざ星マークつけて“アマゾン1位!”ってうたっちゃう(秘訣4:人は1位って言われると買う)」
「へぇ」
「で、米光さんがブログでやってるようなことはね、オープンでやらないの。こっそりテキストを書いてPDFにしちゃうんですよ。まあ、2つに分けて、タイトルも変える(秘訣5:買う人だけの特典をつけろ)」
「ほお」
「それで特典2つできあがり。で、米光さん講座とかワークショップやってる映像あるでしょ?」
「あるよ」
「その中の一つを音声15分ぐらい。もうひとつムービー。
特典1:アイデアが湧き出る6つの基本原理(PDF30ページ)
特典2:アイデアマトリクス全図(巨大PDF)
特典3:発想とは何か(音声セミナー20分)
特典4:発想トレーニングなう(映像セミナー30分)
特典5:電書場メーリングリストに加入!
特典6:電子書籍「アイデア特訓」送付
ね?」
「ひゃー。でも、電書場メーリングリストって、誰でも勝手に入れるよ」
「いいんですよ、細かいことは。たくさんあればお得なんです(秘訣6:特典はたくさんつけろ)」
「で、また同じように時間しぼってamazonで買った人に、これを特典としてプレゼントするってうたっちゃうんです」
「ふむ」
「全部データだからメールですむ。たいてい特典にはDVDのマークつけたりするんですけどね、DVDなんて送りません。手間も金もかかりますから。メールです、データです、ダウンロードURLを書いたメールを送るだけです」
「うへー」
「で、また1位とったら、それをうたって、ご好評につきキャンペーン延長!ってやるんですよ(秘訣7:ご好評につきとか言ってキャンペーンを延長しろ!)」
「わはー。すごいねー」
「米光さん、すごいって言うけど、やらないでしょ」
「やらなーい。そんな引っ掛けるみたいにして売りたくないもの。それより、いま聞いた話を書いたほうがおもしろいよ。書いてもいい?」
「いいですよ。ぼくも、そういう実のない方法で実のない本を売るのって嫌いだから」
「おまえは、ひねくれてるうえに口悪いねー」
「米光さんに言われたくはないですよ」(米光一成)