言ってる意味がわかりませんか? むかえま、ムカエマ、ムカつく絵馬のこと!
著者はご存知、みうらじゅん。あんまり普通の人が着目しないようなものに夢中になっては、ひたすらコレクションして(これをマイブームと呼ぶ)、マンガやコラムで紹介するというかなり特殊な生き方をしている人だ。
わたしは常々「コレクションとは新しい視点の提案である」と言い続けているんだけど、みうら氏のコレクションこそ、まさに新しい視点の塊だと言える。まだ誰も集めていないもの。誰も集めようとしなかったもの。それが集められるものだなんて誰も考えなかったもの。そういう“新しい視点を”提案し続けているのが、みうらじゅんという人物なのだ。
だってさあ、カスハガ(カスのような写真の絵はがき)だよ? いやげもの(イヤな感じの土産物)だよ? ヘンジク(ヘンな柄の掛け軸)だよ? ゆるキャラ(ゆるーいデザインの地方物産キャラクター)だよっ!?
どれもこれも昔から存在していたのに、そこにそういうテーマがあることに誰も気づけなかった。みうら氏は、そういうものを次から次へと発見しては、どうだー! とばかりに突きつけて来る。ま、突きつけられても、普通の人はポカーンとしちゃうんだけどね。
ともかく、そういう“みうらレンズ”を通して採取された「ムカつく絵馬」の写真が、絶妙な漫画とコメントで、これでもか、これでもか、と紹介されている。まるでマヌケ界のサザビーズ・カタログを見ているようだ。
これまでに、みうら氏が発表してきた収集テーマは多岐にわたる。その中でも「ムカエマ」は、わかりやすいおもしろさと、真似のしやすさで読者からの人気も高かった。
そう、この“真似しやすい”って大事なことなんだよな。だって「いやげもの」を集めようとはあんまり思わないけど、神社でムカつく(言い換えれば、おもしろい)願い事の書かれた絵馬を探すのは、考古学者のフィールドワークにも似て、なんだか無性におもしろそうだもんね。
しかし、見つけた絵馬をただそのまんま紹介したのでは、これほどおもしろい本にはならない。そこにはやっぱり独自の視点が必要だ。みうら氏の視点(=勝手な解釈)が施されることで、ムカつく絵馬が2倍にも3倍にも輝きを増す。
ある絵馬には「世界一の幸せ者にしてください」と書かれていた。多少インパクトに欠ける願い事ではあるが、これにみうら視点が加わるとどういうことになるか? また、ある絵馬には「何年かかってもかまいません。どうか僕を作詞家にしてください」と書かれていた。この人物に対してみうら氏が与えた運命とは……?
「ムカエマの世界」は元々「メンズウォーカー」誌で連載されていたもので、その後『見苦しいほど愛されたい』(文春文庫)に収録はされたものの、単独で単行本になることはなかった。それがこの度、ちくま文庫のラインナップとして刊行された。非常にめでたいことだ。正確には今回も単独ではなくて、写真コラムとの合わせ技による刊行なんだけど、ま、そんなのは些細なことだ。