牛肉と言えば日本では霜降り肉が人気だが、海外では依然、赤身肉の人気が根強い。そしてそんな赤身肉を美味しく食べる技術、製法はどんどん進化している。
 

最近日本でも話題になっている赤身肉の食べ方を、ドライエイジングビーフと言うそうだ。

これは調理法ではなく、牛肉を美味しく食べるために施す製法のこと。
ニューヨークのステーキハウスや食肉店を中心に30年ほど前からじわじわ広がり、今では食べられる店も増えたと言う。

方法は簡単に言ってしまうと「温度、湿度、風を調整し、牛肉を乾燥熟成させる」製法。
ただ乾燥させるだけではない。必要な期間は驚きの3~4週間! 衛生管理にうるさい今の季節、できるだけ新鮮なうちに……と思ってしまうが、この製法は腐らせているわけではない。この熟成期間に微生物がつき肉は柔らかく、そして美味しさを引き出していく。

やがて完成した牛肉は乾燥し、カビが付く。しかし黒ずみを落とすと、中からはしっとりとした赤身がお目見え。
焼いて食べると不思議と柔らかく、ジューシーさがアップしているとか。

乾燥させているのになぜ柔らかくジューシーになるのか、日本ドライエイジングビーフ普及協会の方にお話を伺ってみると、「肉の水分には、自由水と活性水があります。ドライエイジングにより自由水だけが放たれ、活性水は肉のおいしさの成分を中心部へと導きます。
決して単純に水分を取り除いてしまうことではありません」
もちろん乾燥した分、肉は縮む。さらに周囲のカビをこそげ落とせば、肉の分量はもっと減ってしまう。熟成させた真ん中部分だけを味わう何とも贅沢な食べ方である。
 
実際に購入して家で食べる場合、普通に焼くだけではもったいない。
推奨している焼き方は、

1. 肉の温度を常温に戻して塩をまぶす
2. 暖めたフライパンで脂面から弱火でじっくり焼き、きつね色になったら両面を色づく程度に焼く
3. 60度のオーブンで45分ほど寝かせ、仕上げにフライパンで表面の水分を飛ばす程度に焼く

焼いている間にドライエイジングビーフ独特の“香気”と呼ばれるスモーキーな香りが漂い始め、食べてみるとなるほど赤身肉とは思えないほど柔らかい。

とはいえ、自宅で調理するのは時間もかかるので、やっぱり外でプロのものを味わいたい。
現在は首都圏を中心に、全国10数軒でこのドライエイジングビーフを味わえるそう。アメリカでの人気を受けて、これからもっと増えていくと思います。と協会の方は言う。
協会では6月末にニューヨークへのドライエイジングビーフツアーも催行。牛肉を食べ工場見学もできるコースで、人気が出れば毎年のツアーも計画しているとか。

ちなみに、最高級の霜降り肉にこの製法を施したら、さぞかし美味しくなるのだろうと思うのは早計。
霜降り肉は大半が脂なので、乾燥させるとしぼんでしまうのだと言う。
「まさにこれは健康的な赤身肉を美味しく楽しむための製法なんです」と協会の方が言うとおり。
さらにこの製法は細かい温度、湿度、そして風の設定を見る人の手と勘が必要だ。
少しでも温度が高くなれば腐り、低ければ凍ってしまう難しい技術。家で気軽に作れるようなものではないのでご注意を。
(のなかなおみ)
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