しかし、なぜあえて今『罪火大戦ジャン・ゴーレ 1』をご紹介したいかというと、ちゃんと理由があって、発売直後に作者本人から献本してもらっていて、割とすぐ読み始めたにもかかわらず、半年近くかかってようやく最近読み終わったところだからです。
……。
「読むの遅っ!!」と思われた方も多いでしょう。
田中啓文という作家をご存知の方は「ダジャレ」か「グロ」あるいは「ダジャレとグロ」の人と認識されていることと思う。それはもちろん間違いではない。というか、極めて正しい認識ではある。しかし、『水霊』(角川ホラー文庫)や『蝿の王』(角川ホラー文庫)といった伝奇長編には顕著なのだが、実は田中啓文の一番の武器はストーリーテリングの才だ。読者を一気に引き込むとんでもない設定から、あれよあれよと意外な展開を繰り返して、読者の予想を一段も二段も越えたスペクタクルへと強引に持ち込む。そう、ダジャレとかグロとかちょっと置いといて、それ一本で素直に勝負したらすごくたくさんの読者に喜ばれるであろう武器……。
多くの作品に接した、身近な作家、読者たちがどれほど口にしたことだろう。
「あの最後のダジャレさえなければ傑作だったのに……」
そういう読者の言葉を散々聞かされたせいだろうか。本作で田中啓文が選んだ道はとんでもないものだった。