「実話ナックルズ」元編集長・久田将義と脱原発活動家・山本太郎。
あるいは、ミュージシャン・大槻ケンヂと自民党所属衆議院議員・河野太郎。
これらがなんの組み合わせかお判りだろうか。
新宿ロフトプラスワンで行われているトークライブ、「思わず聞いてしまいました!!」に登場したゲストなのである。新刊『思わず聞いてしまいました!!』は、その書籍版だ。司会進行役はプチ鹿島と居島一平の芸人2人組である。司会の人選も含め、実に微妙なバランスの上に成り立ったイベントであることが読み進めていくとだんだんわかってくる。
第1回が開催されたのは2010年3月10日、このときのゲストはAV業界の生きた伝説といえる村西とおると、鈴木邦男だった。トークは2部構成で、2人のゲストが共演する場合もあればそうでないときもある。この第1回では、村西監督が喋っている第1部の後半に鈴木邦男が登場するという形で絡みが実現した。
ちなみに、私は鈴木邦男の物言いの感じが好きである。かつて『ゴーマニズム宣言』(「SPA!」連載時)で小林よしのりと対談した際のエピソードをよく覚えている。新右翼と聞いて「どんな『肉体言語』の輩が来るのか」と怯える小林の前に現れた鈴木は、意外なナイスガイだったのだ。
かたや村西とおるは、〈肉体〉の反応をハンディカムで記録しまくり〈言語〉による攻撃によって女性の美を表現する手法で一世を風靡した男だ(黄金の1980年代を知らない人は各自調査!)。
2人が絡むと、「一水会」顧問の口から、
「えっ、駅弁って村西さんが作ったんですか!」
なんて台詞も飛び出すのであった。いや、未成年の人が読んでるかもしれないし、村西版〈駅弁〉が何かは説明しないよ!
第2部ではその鈴木邦男が1人で鹿島と居島を相手に話すことになるのだが、ここで大きなサプライズが待っている。実は司会者の2人のうち、居島一平は「右翼がたまたまお笑いをやっているだけ」の極端な右打者だったのだ。とてもではないがここに再現できないような論調で居島に攻められ、たじたじとなる鈴木が可愛らしい。
この居島の無茶な炎上ぶりと、「東京ポッド許可局」で鍛えられた鹿島の絶妙なフォローによってゲストは翻弄されていく。脱線したかと思えばまた本筋に引き戻されの繰り返しが続き、心地良い陶酔感の中に誘われていくのだ。これ、実際に会場で聴いていたら、死ぬほど笑っただろうな。採録された内容は、活字化を前提としたバージョンなので、無削除版を聞きたければライブに行くしかない。
ライブ感覚が満点なのも本書のいいところだ。
最近の山本には佐賀県庁にデモ隊を率いて突入したとか、テレビのトーク番組で「竹島あげちゃえばいい」発言をしたとか(山本によれば、どちらの例も報道する側によって事実が改変されているとのこと。詳しくは本書にて)、危ない人、ペルソナ・ノングラータのイメージが強くなっているように思う。その山本に反論の場を与えるのは正しいことだし、きちんと笑えるものとして昇華させているのも「演芸」としてはまっとうな手段である。
ライブならではのハプニングで目を見張るのは、ライター・吉田豪と同日に出演した元・貴闘力親方をめぐる一件だ。残念ながら出演時の取り決めでトークそのものは収録されていないのだが、ロフトプラスワン店長が貴闘力と事前交渉をしていた際のツイートによって、トークライブ当日に至るまでの模様が再現されている。特に出演が決まってから八百長問題が勃発してからの展開は綱渡りのようだ。親方職を辞することになった野球賭博の話題だけでもかなり聞きづらいのに、さらに気の重い話が出てきてしまうとは。案の定、貴闘力からは「あれな、八百長の件は一切喋んないから。それ話題に出したらすぐ(イベント)終わりだから」との連絡が……。これ、もし自分が当事者だったら生きた心地がしなかったことだろう。
ゲストの取り合わせによってはまったく話が噛み合わない回もある。
また、元オウム真理教幹部にして現在は新興宗教「ひかりの輪」代表の上祐史浩が出演した回のもう一人のゲストは、右翼的な言動と演説芸で知られる芸人・鳥肌実であった(司会者の居島は、鳥肌のブレーンなのである)。話は鳥肌ペースで進み、あの上祐史浩に昭和天皇の人間宣言や尖閣諸島の問題について語らせている。無茶である。
しかしそこは公開ディベートの達人。オウム真理教が社会問題化したときの上祐は麻原彰晃の洗脳下にあった。彼が数々の疑惑から教団を守るべくメディアの取材を受けまくり、不用意な批判者をことごとく論破して「ああ言えば上祐」の異名を頂戴したことは30代以上の読者ならご記憶だろう。そのころを彷彿とさせる話芸で、上祐は危険な話題もことごとく無事に着地させてしまう。しかし興が乗ったのか、プチ鹿島との間で以下のようなやりとりまで成立させてしまうのだ。
鹿島 上祐さんから見て北朝鮮って、昔のオウムを見ているみたいだなと思います?
上祐 北朝鮮のアナウンサーが「日帝米帝は陰謀を張り巡らしている」ってことで、自分たちが悪いのにそれを隠して一生懸命やってるのを見ると、’94年の自分を思い出すんてすね(中略)あれは麻原が私に教え込んだことで、弱いものが強いものと闘うためには事実と180度違うことを言わないといけない。これは北朝鮮の広報戦術ですよね。
この他登場しているのは北朝鮮問題の専門家・重村智計にコラムニスト・勝谷誠彦、写真家・宮嶋“不肖”茂樹、戸塚宏といった面々である(そしてなぜか帯の推薦文はAVに転向した小向美奈子!)。体罰肯定論を振りかざす戸塚宏など、ゲストの中には私が支持できない人物も多いのだが、それでも最後まで読もうという気持ちにさせられた。前述したようなライブ感覚が楽しかったという理由もあるが、正しいもの、間違ったものの両方を分け隔てなく見せようという公平な態度に惹かれたことが大きい。この本を読んでも決して賢くはならないと思うが、馬鹿に見えないような話し方は学べるはずだ。うん、少なくとも、人の意見をまったく聞かず、大声を出して自分の言いたいことだけを主張しまくる輩が、いかに野蛮かということはよくわかると思うんだ。
(杉江松恋)