最初にぶっちゃけるとですね。
ぼく「泣ける」とか「感動」とか最初に書いてある本や映画すんげえ苦手なんですよ。

泣くのはこっちが選ぶから! 最初に書かんでくれ! …くらいに。
「泣かせるため」に作られる作品は、ノーセンキュー。
ひねくれた大人ですね。高校生の頃からこんなですよ。

この『クリオネの灯り』は、言うなれば外側を見れば、まさに「泣けます」みたいな本。
テーマは「いじめ」。
いつものぼくならまず手に取らない本です。
しかし、帯を見ると漢字にルビふってあるんです。そこで「あれ?」となりました。
アニメ調の、かなり個性の強い色あいの絵柄も気になったのですが、簡単な漢字にまでルビが振ってあるってことは、これマンガや小説じゃなくて、絵物語・絵本か!

それでもひねくれていたぼくは、後ろから読みました。
ひねくれすぎですね。どんだけ泣きたくないんだよ。

そこにあったのは、感動的なエンディングではありませんでした。
この絵本をネットで読んだ感想、思春期の子達の強烈な訴えでした。
「泣きました」「感動しました」じゃないんですよ。物語について云々言うんじゃないんです。
自分の体験した辛い出来事、今いじめにあっていること、自分の抱えている病気、学校での自殺の話、自分が人をいじめた経験……そんなのがみっちり詰まってるんです。
これには驚愕。
感情のエネルギーがちょっとリミッター振り切ってる。
この絵物語を読んだ子たち(10歳から15歳が圧倒的に多いです)が、自分たちの抱える個々の悩みを爆発させているんです。すごい長文から短い叫びまでありますが、この場所でしか叫べないと言わんばかりに書き連ねています。

「学校生活以外では一人ぼっちです。放課後も遊んだりしません。むしろ「遊んでも時間の無駄になるだけだ」と思うようになり、「遊ぼう」と言われるのも大嫌いになってしまいました。」(10〜12歳女性)
「私は虐めもしたし、苛められたこともあります。
虐めをしている時は何とも思ってなくて、『こんな奴どぉなってもいい』ってずっと思ってました。だけど自分が苛められたとき、『あの子もこんなに辛かったんだなぁ』って思いました。」(13〜15歳女性)
「あたしの机の横を通る時は必ずよけます。少しでもあたると蹴られたり殴られたりします。リスカをしようとも思いました。引きこもりをしてやろうかとおもったこともあります。でもあたしには友達がいなくても家族がいる。
とそう思えたんです。」(10〜12歳女性)

一つ一つの感想……じゃないですね、声は、大人になった自分の脳みそに直接キますね。
いじめられて辛かったから、この話を読んでよかった、というわかりやすいストレートなものもあります。漠然とした悩みに押されて「どうやったら笑えるようになるんだろ」とボロっとこぼすだけの声もあります。
家族が失踪した話なんて、もうひたすら「ごめんなさい」と謝っているんです。

「ごめんなさい。こんな意地悪な子が生まれてきてごめんなさい。
こんな自己中心的な子が生まれてきてごめんなさい。こんな憎ったらしい子が生まれてきてごめんなさい。」(13〜15歳女性)

どうしてそんな感情爆発しちゃったの!?
感情が破裂した子供たちのノンフィクションがそこにありました。
自分の中の辛い感情を、この話を読んでいたら出してしまう。出せてしまう。
これはちょっとただならぬ絵物語なんじゃないか。

『クリオネの灯り』は2004年にナチュラルレインが描いた、ネット上の絵物語・絵本です。
ナチュラルレイン
上に書いたような「みんなこえ」は、そのネットを見た人たちの感想を集めたもの。
サイト上でも感想の数々は見られます。大人の冷静な良い・悪いという評価ももちろん載っています。
しかし、子供たちの感情の揺さぶられ方がやはり尋常じゃないんですよ。
命にかかわるような悩みもあれば、小さなモヤモヤした悩みもあります。でもそれらを刺激して吐き出させるのには理由があります。

本文の物語は非常にシンプルです。
あとがきでも「この物語は、既存の小説などに比べ、具体的な描写をあえて少なくする選択をしました」とあります。
文体も、それぞれメイン3人のキャラの口調で書いてあるので、極めて主観的です。
いじめを大人の目線から見て正すこともないし、統計的に語ることもしません。いじめられた本人や周囲の人がどう感じるのかを間接的にほのめかすのみです。
絵は表紙を見るとわかるように、目に強烈に刺さるような赤と青強めのイラストがなにより印象的で、一度見たらなかなか忘れられません。
そこに簡単でわかりやすい文章が添えられています。難しい言葉は使われていませんし、全部ルビふってあります。このへん完全に絵本ですね。

で、ここは驚いた点なんですが、「いじめ」がテーマなのにいじめられているシーンはほとんどないです。
逆に、いじめられていた子が、友達二人といる幸せなシーンがコツコツと蓄積するように描かれているんです。

いわば、今「つらい」思いをしている子たちが、本当に求めているささやかなしあわせが、この絵本に描かれている。
詳し過ぎない分、自分の思いを行間に盛り込めるんです。

「テトラポッドを抜けると、その先には小さな白い灯台がひっそりと立っていた。
そしてそこから、ささやかで腕の中に収まってしまいそうな街の灯りが広がっていた。
「ねぇ、見て、すごいよぉーっ」
そう言って、手を一杯に広げながら振り向く実ちゃんは、大切な宝物をナイショでそっと見せる無邪気な子供のようだった」

実ちゃんはいじめられっ子。でも今この瞬間、友だちの杏子から見たら、とても楽しそうに見える。
すごくシンプルな文章で、どうしようもなく大切な一瞬をイラスト入りで描いています。
本当にささやかなんですが、その誰かと居るささやかな瞬間が幸せ。これを全面に押し出しているため、つらい思いをしている若い子の心にグイグイ入ってきます。
今死にたいくらい辛いけど、実はどこかに幸せがあるんじゃないだろうか?

ネットでの反響の文章の数々とあわせて書籍化されているのは正解だと思いました。
おそらくこの物語は、小中学生に一番響くでしょう。大人からしても面白いのですが、多分ノスタルジックな感覚が強くなるかも知れません。リアルタイムを体験している子供に、最も刺さる本だと思います。
この本を手にとって読んだ小中学生の子供達が、同じ世代の子たちの叫びや呻きを読んだ時、これは心にきます。同年代の声は、なによりも強力。
大人のシビアな意見も切り捨てずに入っているのが特徴的。
「イジメを受けてる子は、これを見て楽になるコトはあっても、現実にリアルな問題に立ち向かっていけるのか…?」
普通こういう意見載せないですよね。よく載せたなあ。
でもそういうのがちゃんと入っているので、感傷的になりすぎないんですよ。本文は主観的にあえて曖昧に、「みんなこえ」は生々しくそのままに。
すべてひっくるめて、子供たちに問います。
生きて、人間関係を築く時、何が得られるんだろう?

「いじめ」はテーマの一つに過ぎません。もっと大きな「人間のつながり」を、ぼんやりとした、読み手が自由に捉えられる仕方で描かれています。
もちろんストレートに、いじめをテーマとした作品として読むこともできますが、個人的には後ろのページの激しすぎる熱量の「みんなこえ」から見ることをオススメしてみます。うがった読み方ですが、興味深いですよ。
ネット・携帯電話世代の人間が実感している物が、絵と文と音(CD付きです)で感じられるはずです。

この本について「感動する」とか「泣ける」とかぼくは書きません。それは実際に読んで見て、各自の感覚でジャッジすればいいでしょう。
ただ、ネットでこういう作品が公開され、たくさんの若い人が影響を受け、そして書籍化されたというのは見逃せない事実だと思うのです。
(たまごまご)