『SAIだけで描くガーリーデジ絵レッスン』は、CGイラストのハウトゥー本です。
……なのですが、タイトルの通り、本自体が「ガーリー」のかたまりになってるんですよ。
極度なまでに体裁にこだわった、「手元に置いておきたい!」と思わせるイラスト描き方本の登場です。ちょっと珍しいですよ。
イラスト描き方本って、ひと通り読んだらもういいかなーってどうしてもなっちゃうものです。資料ですしね。とっておくのは好きな作家さんが描いているのだけでいいかなとか。
違う。デジタルを扱う書籍だというのに、この本は本として紙に触れることの大切さをとことん大事にしている。
まず本の形からしてすごいよ。横長です。ペラペラめくる感覚がすごく気持ちいい。
イラストハウトゥー本って画面キャプチャを載せるので、上から下に1・2・3と見せるのが基本。
でもこの本はあえて横長にしています。ちょうどディスプレイの壁紙になるような形状。
掲載されている絵も基本少女画ですが、背景をじっくり見せることでガーリーさを出すため、横長のみ。
問題の紙面レイアウトも、両端にワンポイントアドバイスを入れることで空間をうまく使っています。
確かに縦長サイズの本の方が多く情報量を載せられるでしょうけれども、横長にして余白を作り、そこに小物オブジェクトを散りばめることでまるでおもちゃ箱のようなページ構成になっているんです。
次に表紙。よくあるツルツル表紙じゃなくて、サラサラした手触りの紙をつかっています。
これが表紙のイラストとよくマッチしている。折り返しも大きくて、まるで絵本のよう。
背表紙にも図書館の蔵書シールのようなレイアウトがされており、アンティーク調な小技が効いています。
そして、紙面レイアウト。
とにかく白いページが一切ない。背景はびっちりと、アクセサリー・小物ショップで売ってるようなアイテムでうめつくされてます。古切手とか、ハガキとか、付箋とか、アンティークっぽさが満載。
実用本なんですが、余白の使い方が非常に巧みなので、絵本のように眺めているだけでも心地いいです。
また全体の背景がシックな色で統一されているため、見ていて安心させてくれます。
妙に手触りがよく、色合いにこった「本」の形式にこだわったイラスト解説本。
なぜイラスト解説本だというのに、こんなにこっているんだろう?
最近は特に高いソフトを買わなくても、誰でも気軽にカラーCGイラストを家で描けるようになりました。タブレットも安いですし、イラストツール「SAI」もお手頃価格。
そのせいもあってか、イラストの描き方の本も年々増えています。
以前はツールの使い方やイラストそのものの描き方のテクニックが中心でしたが、近年は細分化しています。萌え系少女の描き方。銃器の描き方。
そんな中で発売されたこの本。「ガーリー」という非常に曖昧な部分をテーマにした本です。
おそらく描き方の解説だけだったら、縦長で普通のレイアウトのほうが実践的だったでしょう。決して紙面のコストパフォーマンスがいい本ではないです。
しかし、「ガーリー」ってもう感覚の世界なわけです。
どこまでのめりこめるか、どこまで耽溺できるか。絵にどこまで少女感覚を注げるか。
だから本そのものが、アナログな「ガーリー」感覚になっているんです。
イントロダクションでも「この本は「イラストを描くのが好きだけど、デジタルでイラストを描くのはちょっと……」という、デジ絵完全初心者の人に向けた本です」と書かれています。
つまり、アナログ派の人向けなんですよ。
紙に絵を描く人にとって、肌感覚は非常に大事。それらの人が手にとった時、この表紙やページ紙質はきっと気持ちいいはず。開いて目に飛び込む色の数々は心地いいはず。
加えて、アナログ否定をせず、デジタルを使うことで「もっともっとクリエイティブの幅が広がるのではないでしょうか?」と手を差し伸べています。
その結果として、読んだら終わり、ではなくグッズとして手元に置いておきたい本がうまれました。
肝心の絵の描き方部分ですが、最初の3分の1くらいはツール「SAI」の使い方になっています。ここは基本他の説明書と変わりません。横長なので、真ん中で区切って二段組になっています。
そして作家テクニック編に入るのですが、ここからがいかにデジタルでアナログっぽいガーリーさを出すかに重点がおかれていて非常に参考になります。
ぼかしのテクニックを駆使したり、化粧をするように淡い彩色を施したり、髪のなびきを利用したり、背景の小物に小技を施したり。
ガーリーという曖昧な言葉を絵にする時、こういう風にすると味が出るんだ、というのが具体的に書かれていますので、実際に描きたい方には役立つはずです。
あくまでも絵のテクニック集なので、これを読んだら絵が急にうまくなる、というわけではないです。雰囲気付けの技術本です。
しかしそういうデジタルの本が、アナログな人のための、読めればイイというものじゃなく細部までこだわった作品として発売されたことには大きな意義を感じます。
「とっておきたい本」って、買う動機、ハードルを超える動機の一つになるんじゃないかな。
『SAIだけで描くガーリーデジ絵レッスン』
(たまごまご)