たとえばプロレスラー・鈴木みのるの文章がそれだ。鈴木は専門誌「週刊プロレス」に1ページのコラム連載を持っていて、もう5年ぐらい書いている。その文章がときどき、すごいことになっているのである。
たとえば自身のコスチュームについて触れた回がそうだった。鈴木はリングへの入場時、タイツとシューズの他は身にまとわず、頭からタオルだけをかぶって出てくる。色は基本的にすべて黒。ときどき特別な試合のときに白。その理由を鈴木はこう書く。
ーー[……]ほかの色だと自分を表現するのにかえって邪魔になる。赤だろうが青だろうが蛍光色だろうが、モノトーン以外のカラーは闘いの中で表現できるから。
「モノトーン以外のカラーは闘いの中で表現できるから」!
これはびっくり。たしかにプロレスの試合にはさまざまな感情が盛り込まれる。喜怒哀楽、すべてを肉体で表現できるのがレスラーの強みだ。だが、0と100、メーターの針が極端に触れる白と黒だけはそれをすることができない。
おお、なんて自分を知り尽くしている人間の発言なのだろうか。
「週刊プロレス」連載をまとめた単行本『鈴木みのるの独り言100選』には、こんなふうに刺激的な言葉がたくさん収録されている。
プロレスファン以外の人はまったく知らないだろうが、鈴木みのるは「世界一性格の悪い男」とマスコミから言われている。予定調和的なコメントではなく、記者の勉強不足を皮肉ったり、決まりきった文句を馬鹿にするような物言いをしょっちゅうするので、最初は揶揄するような意味でつけられたと記憶している。だが、「世界一性格の悪い男」の言葉はいつも非常に理詰めで、感心させられることが多い。