オバチャンってイメージ、あまり良くないですよね。でも、この人だけは違います。


えーっと、総選挙の投開票当日の12月16日にテレビ東京で放映された選挙特番「池上彰の総選挙ライブ」。元NHK報道記者でジャーナリストの池上彰さんの無双っぷりに、テレビから目が離せなかった人も多かったんじゃないでしょうか? 

公明党に「創価の組織票ですね」、未来の党に「負けそうな候補者の駆け込み寺」、自民党に「民主が負けただけだと言われてますが」、石原さんに「パプアニューギニアと北朝鮮を一緒にするから、石原慎太郎は暴走老人って言われるんですよ」、鳩山さんに「福岡に移ったのは、ブリヂストンの工場があるからですよね?」、橋下さんに「原発に厳しい意見を言っていたのに石原さんと組んだ瞬間に、意見が変わってませんでしたか?」……いやー、どれもみな、良い質問ですね!

進行役に大江麻理子アナ、ゲストに峰竜太さん、宮崎美子さん、眞鍋かをりさんらを並べ、テレビ東京とくれば気分はすっかり「出没!アド街ック天国」。そんな中で、池上さんの歯に衣着せぬ質問ぶりに、スタジオ中までハラハラ、ドキドキ。久々に「先の展開が読めない」という、生放送ならではの醍醐味が味わえました。

実は池上さんの質問力が際立つのは、オバチャン力が際立ってるから、なんですよ。

「空気を読まない」「聞きたいことを聞く」って、オバチャンっぽいでしょう? ついでにテレビの仕事を干されても、これっぽっちも困らない(ように見える)。いささか強引ですが「稼ぎは旦那任せで、収入が安定している」専業主婦に似てませんか? いや、僕も主夫ライターですので。アマチュアリズム万歳です、はい。

でも、こうしたオバチャン力、優れたジャーナリストには必須なんですよ。「当選のお気持ちは?」なんて、なれ合いの質問ばかりでは、全然おもしろくないですよね。聞きにくいことはバカのふりして、さらっと聞けと、僕も先輩から教えられました。

もちろん、ただのオバチャンとジャーナリストの間には、学識や経験、教養といった、大きな違いがある。
このことを改めて感じさせてくれるたが、本書『池上彰の政治の学校』です。9月に新書で出版され、12月にキンドル版も出版。値段も4割近く割引され、グッとお求めやすくなりました。特番を見て政治に興味を持った人が、さらに理解を深めるには最適のテキストです。

内容は先に出版された『知らないと損する 池上彰のお金の学校』と同じく、日本の政治の現状と問題点について、授業形式で説明していくというもの。序論にあたるホームルーム「日本の政治、どこがおかしい!?」から始まって、一限目は選挙制度、二限目は政党、以下国会、官僚、ネットと政治、ポピュリズムと続いていきます。要点を絞って、わかりやすい言葉で、論理立てて解説していく池上節は、名人の落語を聞いているようですね。

ま、そんな中にもちくり、ちくりと皮肉を入れるオバチャン目線は健在です。「柔道ではオリンピックで金メダルを取れたかもしれないけど、政治にはまったく不案内といった人たちが、国会へ足を踏み入れることを許してしまうことになりました」「いつまで経っても宇宙人のような人が首相になったり」などなど。でも、こうした反骨精神ってジャーナリストにはとても大切です。

また膝を打ったのが「主義主張としては、社民党と共産党はほぼ同じです。どちらも『言っていることが全部実現したらどんなに幸せな社会になるだろう』という夢のような理想論を主張しています。」というくだり。
先の特番でも両党首の福島瑞穂さんと志位和夫さんに「政策が似ているのに、なんで一緒にならないの?」という質問をぶつけてましたっけ。それ会話のキャッチボールではなくて、デッドボールですからっ! 

こんな風に「ああ、あの問題意識が、この質問に繋がっていたのね」という点が満載で、番組とあわせて読みたい内容です。

そんな池上さん、本書で日本の政治改革のために「小学生、中学生の頃から、『模擬投票』など、政治に興味を持たせるような授業をすること」「選挙権を与える年齢を(18歳などに))引き下げること」という二点を提唱されています。個人的には大賛成ですが、先生方の腰が引けちゃうだろうなあ。でも、重要なことですよね。

ちなみに夏には参院選が控えています。すでに同局の選挙特番で司会を務めることが内定しているんだとか。ねじれ国会の行方を占う大事な選挙。それまでに本書で、しっかり予習しておきましょう!
(小野憲史)
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