声優業界という憧れの世界の入口に立ったばかりの新人声優たちが主人公の4コマ漫画同人誌『それが声優!』
原作者は、作家としても活動中の声優・浅野真澄(ペンネームは、あさのますみ)。作画担当は、週刊少年サンデーで『ハヤテのごとく!』を連載中の畑健二郎。
2人のプロがサークル「はじめまして。」を結成し、同人誌というスタイルでの創作を楽しみながらも、新たな表現手段として本気で取り組むこの作品。2011年の冬コミ(コミケ81)から、コミケの度に新作を発表し、人気を集めています。2巻からは、知る人ぞ知るプロアシスタントMAEDAXも制作に参加。一般書店で売られている商業マンガにも、見劣りしません。

昨年末のコミケ83で頒布された、スピンオフ的作品『それが声優! EX』の主人公は、歌って踊って芝居もできる「アイドル声優」を目指す、萌咲いちご。ピンク髪のツインテールがトレードマークで、華のある美少女です。しかし、声優としての仕事は少なく、地道なアルバイトで生活費を稼ぐ日々。ゲームのオーディションに合格し、初のステージイベント出演も決まって喜ぶものの、声優界ではイベント用の衣装は自前が常識。可愛い衣装と引き替えに、電気やガスの止まった部屋でパンの耳をかじる赤貧生活に……。
こういった作中のエピソードは、原作者や、同業の友人たちの実体験がベース。笑い話のような失敗談や、あまり知られていない声優の舞台裏の姿、声優だけが知る喜びや悲しみも盛り込まれています。

『EX(エクストラ)』と題された今作は、スペシャルなゲストキャラも登場。
武道館アーティストでもある超人気声優・堀江由衣が、実名のままマンガのキャラになっています。
いちごが出演するゲームのメインヒロインを務める堀江。いちごは、緊張しながらイベントの楽屋へ向かいますが、そこに現れたのは、スターのオーラを放つ声優「ほりえゆい」ではなく、大きな眼鏡に、髪はぼさぼさで濡れたまま、服装も地味な女性「ゆりえほい」。
あ、実はニセモノだったというオチではありません。
「ゆりえほい」とは、堀江の友人でもある原作者によるニックネーム。あまり身だしなみには気を配らない、普段の堀江の姿を見て、「堀江由衣ちゃんによく似た別人みたい」と、命名したものです。
いちごの夢を実現している堀江は、物語上でも重要なキャラクター。いちごと読者の両方に強い印象を残すあるセリフも、原作者による堀江への取材を元に作られています。素敵な先輩に出会えるかどうかって、新人の将来を大きく左右しますよね。声優に限らず。

コミケ83では完売した『EX』ですが、同人誌を扱う書店では販売中。詳細は「はじめまして。」のホームページで確認できます。
すでに次巻の構想を練っているという2人。今年は、さらに攻めの姿勢で活動するとも宣言しています。
ちなみに、筆者もコミケ83でブースへ行きましたが、スタッフの一員として、畑さんは行列を整理。あさのさんは机の奥でひたすら裏方作業をしていました。喉の保護のためマスクをして、段ボールや同人誌と格闘している姿は、人気声優の浅野真澄というより、よく似た別人「まさのあすみ」のようにも見えて……。もちろん、良い意味で!
(丸本大輔)
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