その新しい企画がDVDとなり、三ヶ月連続で「伊集院光のばらえてぃーぷらす」として刊行されます。1月25日に発売されたのは「本当は怖い話だった話」の巻になります。新シリーズ1本目にふさわしい傑作なのですよ!
今回のテーマは「怪談」で悪ふざけをしようというものです。伊集院さんの信条として「笑い話と怪談は構造が同じ」というものがあります。どちらも人を引き込む話術や構成力、そして演出が重要だからです。笑い話のプロたる芸人はその道のスペシャリストのはず……でも、若手芸人の中でも特に話すのが苦手なタイプに怪談話をしてもらうとそれは怖い話になるの? というのが今回の企画趣旨になります。
具体的なルールを箇条書きで紹介しましょう。
・話すことが苦手な若手芸人4人を集める
・若手芸人は2人ずつ2組にわかれ、その組の人がお互いの対戦相手となる(つまり、2戦あります)
・伊集院さんが若手芸人にとっておきの怖い話をする
・若手芸人は、その話を聴衆(公平にするために同じ人数で入れ替え制となっています)にする
・より怖い話になるように話をした方が勝ち
伊集院さんのお話は、本当に怖いんです。話の中での怪談の雰囲気作り、間の取り方、強調すべきポイントなどが作中で解説されながら進んでいきます。例えば「これは僕の友だちのサトウタカフミくんに聞いた話なんですが……」「タカフミが……」「そのときタカフミくんは……」というように、具体的な名前を連呼して覚えてもらい、イメージを膨らませるとかですね。
でも、若手芸人の話す内容は全然怖くありません。それどころか、話の途中で名前を間違えたり、謎の登場人物が出てきたり、そもそもお話が全く進まなかったり。みんな恐怖よりも先に疑問がどんどん出てきてしまうのですね。最後にはとうとう聴衆から「本当に伊集院さんの話を聞いていたんですか?」とツッコミをもらっていたりします。話術って本当に大事なのですね。
実はここまではテレビでもやった企画を再構成したものだったりします。DVDではさらなる企画が収録されていました。「怖い話を聞かせたい人 vs 怖い話を絶対聞きたくない人 ガチンコ対決!!」と「みんなで作ろう! 本当はあんまり怖くなかった怖い話」です。
「怖い話を聞かせたい人(略)」は、芸能界一怖い話が大嫌いなX-GUNの西尾さんに伊集院さんが怖い話をする。西尾さんは3回だけ、1分間のぶちこわしタイムを使うことができる。ぶちこわしタイムでは何をしてテンションをあげてもいい。
西尾さんが勝つためには、ぶちこわしタイムの使い方が重要になります。3回しか使えませんが、1回使うたびに大きく流れを変えることができるわけですから、慎重に使うタイミングを計らなければなりません。
「それではよろしくお願いします……ま、こう、出てくる人」
「タイム」
「えっ?!」
まさかの開始数秒で3回しかないタイムを使うとは! 具体的な話を一切していないのに! さすが芸能界一の怖がり!
伊集院さんのとっておきの話は本当に怖かったです。ですが、西尾さんも恐怖に耐えるために必死でぶちこわします。この息詰まる熱戦の決着は是非DVDでご確認ください。
伊集院さんの話術の真骨頂とも言えるのが、その次の「みんなで作ろう! 本当はあんまり怖くなかった怖い話」です。まず、若手芸人に話をしてもらいます。ところがうろ覚えだけに、多少怖いポイントはあるんだけれどもあまり怖くないのですね。じゃあ、その話をみんなで盛って、ここをこうすればいい怪談話になる! と演出や構成を見直し、仕立て直してしまおうという企画になります。
例えば、若手芸人イマニさんが友人が実際に体験した怖い話をします。雰囲気はいいんだけれども、お話そのものがわかりにくい。そこで伊集院さんはこういうのです。
「ごめん。その友だちさ、5人兄弟にしていい?」
確かに1人での話より、兄弟それぞれが順番に体験して異変をみんなで共有する形にした方が、徐々に恐怖が高まっていきます。なるほど、こうすると話にリアリティが増す演出になるのだなあということがわかります。他にも伏線の張り方とか、具体的な修正ポイントを挙げてどんどん話を再構成していきます。普段の話術にも応用できる内容で、とても参考になりました。
「怖い話」なのに爆笑でき、しかも話術の勉強にもなる。色々な意味でお得なDVDです。今回のシリーズも面白いですよ!
(杉村 啓)