実際に何が起きていたのかは、ワシントンポストの特設ページを見ると分かりやすい。mphやキロトンなど馴染みが無い単位が並んでいるが、要するにこういうことだ。だいたい野球のマウンドからホームベースくらいの大きさ(約17メートル)で、原子力潜水艦より重い(約1万トン)岩の塊が、スペースシャトルの二倍以上の速度(時速5〜6万キロ以上)で落ちてきて、広島の原子爆弾約30個分のエネルギーで爆発した。
2月15日には偶然にも別の小惑星も地球の近くを通過しており、そちらはNASAが1年前からキャッチしていた。しかしロシアに落下した方は予測できなかった。天文観測のスケールからすると小さすぎたし、昼間に接近してきたので観測が難しかったからだ。だから隕石の爆発から生じた衝撃波は、予告無しにロシアの市街地を襲った(さいわい隕石そのものは市街地に落下していない)。
人々がそれにどれだけ驚いたかは、ネットに上げられているたくさんの動画から知ることができる。昼間でもあたりを照らす凄まじい閃光、巨大な飛行機雲、そのすぐ後に響く爆音。オフィスの窓際にいた人が衝撃波で突き飛ばされたように転がる様子や、どこかのドアが吹っ飛ぶ様子をおさめた動画もある。
発生当初はまさか隕石が爆発したとは思わないから、飛行機事故かテロや戦争を心配した人が多かった。何か他の意味を加えようとする人もいる。過激な言動で知られる政治家のウラジミール・ジリノフスキーは、爆発はアメリカの新兵器の実験のせいだと主張しているし、ロシア正教の僧侶は隕石は人類に対する神からの警告だとコメントしている。でも時間をおいて落ち着けば、たいていのロシア人はもっとしたたかに立ち回る。厳しい気候に国家当局の取り締まりなど、いきなり襲ってくる災難をたくましい商魂と自虐的なユーモアでやりすごすのは慣れっこだからだ。
APの記事によれば、衝撃波で割れた窓ガラスを見て「これで保険で新しくできる」と喜んでいる人もいれば、便乗しようと自分でたたき割る人もいるそうだ。隕石の破片を拾ったと主張して、ネットオークションで一儲けしようとする人も出てきた。隕石の動画や写真を売ろうとしている人もいるだろう。そもそも隕石落下の動画がたくさんあるのは、交通事故や汚職警官による不法な尋問から自衛するために、自動車のダッシュボードにカメラをつけるのが流行しているからだ。
ネットでは隕石大喜利が始まった。「大統領の任期延長の良い口実になるな」「大統領の調査委員会が対抗候補が隕石落下に関与しているという調査結果を準備してるよ」というソビエト連邦時代から培われた鉄板の政治ネタから「隕石に住んでた人もチェリャビンスクが近づいてきたことを知って震え上がったんじゃないか」と、かつて核施設で事故が起きたチェリャビンスク州を皮肉るものに加えて、ネットらしく、政府御用達のニュースキャスターが緑色に顔を塗られて「今朝チェリャビンスクでは何も起きませんでした」と情報操作している画像や、プーチン大統領が隕石にまたがっている画像まで公開されている。
NASAによれば、今回のような隕石が落下してくるのは100年に一度の出来事らしい。不況に地震と100年に一度の出来事が最近多すぎるような気もするけれど、災害や事故を100%予測することはできない。それならむやみに心配して神経をすり減らすよりも、ロシア人を見習って儲けたり笑い飛ばしたりする強さを身につけたほうがよさそうだ。(tk_zombie)