一方、言語、文化や感覚の違いから、契約トラブルをはじめさまざまな問題も起こりやすい。これまでに多くのアジア法律問題を解決してきた森・濱田松本法律事務所(以下、MHM)の高谷知佐子弁護士、小山洋平弁護士、Pavitra Iyer弁護士(インド法)にお話をうかがった。
海外進出で起こるアクシデントとは
文化や勝手が違うことはアクシデントの原因となる。小山弁護士いわく、「日本は比較的、時間やスケジュールを遵守して契約の交渉や取引の実行が進みますが、他のアジア諸国だとそうはいきません。契約書を交わしてもスケジュール通りに進まなかったり、当初の約束が守られなかったりして、日本企業が振り回されることは本当に多いです。むしろ、日本がアジア諸国の中ではユニークなくらいきっちりしているんですよね」とのこと。
スケジュールが守られるよう、確認事項は文書に残すようにし、相手のペースに飲まれないことが重要だという。企業が前もって懸念点を把握できるよう、MHMでは起こりうるアクシデントを事前に伝え、対応策を用意しておくなどのサポートを行っているという。
日本とインド、国民性の違いでトラブルも
Iyer弁護士によれば、時間をきっちり守る日本とは反対に、インドでは、バスの時刻表はあるが定刻通りに来ることはまずないというほど時間におおらかな国だという。スケジュール通りに案件が進まないことで、日本の社内調整が大変なことも多いという。
また、日本人は基本的に他人を信用しがちな国民性なので、契約文言をよく確認しないまま相手の言い分を信頼しきってしまうこともある。結果、不利な契約が締結され、強引に話を進められてしまった企業もあるという。
MHMでは、そのようなトラブルに巻き込まれないためにも、“インド慣れ”していない中小企業にそういったアジア独特の文化や、感覚の違いもきちんと説明している。
各国のいろいろな法律
企業の海外進出において、無視できないのが現地の法律。日本人にとっては意外なものがたくさんある。例えば、ブラジルでは労働者は与えられた権利を勝手に放棄できない。つまり、仮に労働者と契約で従前よりも不利な条件について合意したとしても、無効になってしまうのだ。
また、インドの外国為替法はとても厳しく、送金手続や当局への申請書類の複雑さは海外の投資家を悩ませるそうだ。他にも、これまでにミャンマーでは法律が一般的に手に入らず、役所に行かないと確認できない状況であったという。
いち早くインドに注目した理由
MHMは、中国・シンガポール・ヤンゴンにもオフィスを構え、バンコクにMHMデスクを設置するなど、アジア事業を積極的に行っている。企業のインド展開にもいち早く取り組んでおり、多くの解決実績を残している。2000年にインドのKochhar&Co.法律事務所で研修を受け、インド展開に尽力してきた高谷弁護士。インドに着目した理由については、「研修先にインドを選んだ理由は単純です。まず、英語が通じること。
MHMのインド業務では、前例のない案件に対応をするためにも、事務所にインド出身の弁護士や、現地の法律事務所から研修生として弁護士を招き、知識の蓄積と強化を行っている。現在、北京・上海、ミャンマー、バンコクと、アジア各国に着実に拠点を増やしている。また、国内でも大阪・福岡にオフィスを構え、地方企業のサポートも積極的に行っている。
高谷弁護士と小山弁護士は、今後の展望についてこう語る。
「今後はベトナムとインドネシアも強化していきたいです。できればバングラデシュも頑張りたい。ブラジル、南アなど、日本企業が目指す国に寄り添っていきたいですね」(高谷弁護士)
「大阪、福岡にもオフィスがあるので、情報が集まりにくい西日本の企業にもきちんとサポートを行っていきたいです」(小山弁護士)
常に未来を見据えた活動姿勢で、経験豊富な弁護士が細やかなサポートを行うMHM。ますます大きくなる日本企業のアジア進出の裏には、そっと企業の背中を後押しする頼もしい法律事務所の存在があるのだ。