そんな彼女が、食欲の秋に発表した新作『OPQ EP』では、なんとご飯のお供の大定番「きゅうりのキューちゃん」
(東海漬物)とコラボしているという。そんなニュースを耳にし、「ん?」と思った。それ自体で完成している「商品」が相手では、レシピをラップする必要はない。彼女がどんなアプローチをしているのか気になり、さっそく聴いてみた。
CDは、「きゅうりのキューちゃん」およびそのリミックスが収録された「キューちゃん盤(期間限定生産)」と、新曲2曲と「キューちゃん」を収録した「通常盤」の2種類が出ている。私が聴いたのは「通常盤」だ。
ジャケのイラストは、いつも通りDMMG本人が担当しているが、「Special Thanks」欄を見て驚いた。レバ刺しへの愛を綴った泣ける食マンガ『さよなら、レバ刺し〜禁止までの438日間』の谷口菜津子の名前がクレジットされているではないか! 調べてみると、ジャケットに描かれた「キューちゃん」をキャラ化した少年(?)の顔を作ったのが谷口とのこと。マンガもレバ刺しも大好きなので、予想外のコラボにちょっと興奮してしまった。
と、肝心の楽曲だが、タイトルの「OPQ」は収録する3曲の頭文字を並べたもの。
1曲目「おまんじゅう」は、蒸す湯気がそのまま音になったような、ほんわかした曲調で、おまんじゅうのレシピがラップされる。
2曲目「PIZZA」の歌詞は、レシピではない。宅配ピザを注文した女性とそれを運ぶ配達員の様子が、電話ボタンの打音と着信音を用いたリズムに乗せて、交互に描写される。この曲は、「宅配ピザ屋のチラシ」といった小道具の使い方がひじょうに巧みで、少ない言葉でもって、普遍的な生活の情景をあざやかに描き出すことに成功している(ちなみに、「Special Thanks」欄に「某宅配ピザ 竹の塚店」というクレジットがあって笑った)。
そして3曲目は、前述の「きゅうりのキューちゃん」。DMMG特有のユルさとグルーヴ感が同居する、ベースラインがひじょうに印象的な曲だ。タイアップという外的要素はあれど、どこを切ってもDMMGの音。すでに、一聴してそれとわかるオリジナリティを確立していることがわかる。
「オレは1962年生まれ、ぬかづけたくあん主流の当時、しょう油の香りで食卓制圧」的な自己紹介をカマし(注:じっさいは、こんな強い調子じゃありません)、さらに「今夜は誰とご相席 みんなと仲良し」と、「○○な奴は大体友達」な展開を経て、突如登場するのが「キューちゃんバター」なるモノ。なんだ、それは?
これは、DMMGによる「きゅうりのキューちゃん」を使ったオリジナルレシピのようだ。楽曲のなかでは詳細は歌われないが、CDの裏ジャケにレシピが掲載されている。バターに刻んだキューちゃん+好みの具材を混ぜ込み、筒状に冷やし固めたものとのこと。
今作においては「PIZZA」に顕著だが、前作『おりおりのおりょうり〜X’mas〜』で料理を軸に「季節」を描いてみせたように、DMMGによるベッドルームミュージックならぬキッチンルームミュージックは、「食」を起点にどんどん視野を広げ、「生活」という、もっとも身近で、しかしものすごく壮大なテーマに向かい合おうとしているように見える。そして、そう遠からず発表されるに違いないフルアルバムでは、その視点での、その時点での集大成となる歌を聴けるに違いない。
さて、全3曲、楽しい時間はあっという間に終わってしまった。時間をかけて作った料理が、ものの10分程度で胃袋に消えてしまうのと似て、儚い。しかし、これは幸いにもCDだ。聴き足りなければ、もう1度、再生ボタンを押せばいい。というわけで……
おかわりー!
動画 DJみそしるとMCごはん『きゅうりのキューちゃん』PV
(辻本力)