『GANTZ』が大ヒットした奥浩哉の最新作。
『GANTZ』の前半はめちゃくちゃおもしろかったので、大期待して読んだ『いぬやしき』第一話は、その高いハードルを超えた。
58歳サラリーマンのお父さんが主人公。見た目、老けていておじいちゃんである。
名は犬屋敷壱郎。
ようやく一戸建てを手に入れるのだが。
「なんでさー こんな奥まった土地買ったの?」
「昼なのに真っ暗だよ 団地と変わんねーじゃん」
子供達には不評。
話相手は犬の「はな子」だけ。
健康診断で胃ガンと診断されるも家族に話すタイミングすらつかめない。
冴えない。希望もない。
公園で泣いていると、上空がカッと光り、何かが墜落。
同じタイミングに公園にいた少年と犬屋敷おじいちゃんは、1話目ラストではやくも死亡。
で、墜落した何者かが、この二人を「すみやかに表面的にだけでも復元」した。
その結果、二人は、超人的な能力を持つアンドロイドとして生まれ変わるのだ。
『いぬやしき』1巻は、能力を駆使して人を救うことを生きがいに感じる犬屋敷さんを丁寧に描く。
2巻は、もうひとりの少年ヒロが主役。彼は、その能力を破壊に使う。人を殺し、ATMから金を盗む。
で、3巻に突入。1&2巻で善と悪のヒーローが出そろったのだから、いよいよ対決開始かと思いきや。
理不尽な暴力を繰り返す恐ろしい鮫島という男が登場し、こいつと犬屋敷おじいちゃんの対決だけで「続く」になってしまった。
作者の中で何かが暴走してしまったのか、すごい密度の描き込みで、大ゴマを連発。
なにしろ『いぬやしき』3巻、見開きのページが27カ所。
それでいながら、スカスカだなーとはまったく思わせない。
巨大なパワーで漫画表現を拡張している
とくに第22話。
おじいちゃんが暴力沙汰の現場に突入する見開き2ページで始まり、
ページをめくると次も見開き2ページ、セリフなし。おじいちゃんパンチが炸裂し、2人ふっとぶ。
さらに次も見開き2ページ、セリフなし。おじいちゃん前進。
おそらくこの6ページ、0.5秒ぐらいしか経過していない。
手抜きなのではない。
緻密に描かれた絵は、ものすごく手間かかっている。
デティールの細かさ、動きの躍動感、大きな絵がもたらす迫力。
作者は、テンポよい展開以上の何かを描きたいのだろう。
見開きでおじいちゃんといえば大友克洋『童夢』を連想する。
これは奥浩哉版『童夢』になるのではないか。
だが、この調子でやっていたら200巻ぐらいになっちゃうんじゃないか。
どうなるんだ『いぬやしき』!? 目が離せないぞ。
(米光一成)