
ゲイ雑誌「さぶ」「薔薇族」「Badi」などに作品を連載する漫画家・小説家です。
ゲイカルチャーが持つ、エロティシズム・サディズム・マゾヒズムのフェティシズムを常に描いてきた彼。
ゲイのサディスト・マゾヒストが持つ「誇り」をテーマに、美しい筋肉質の男性たちを描き続けています。
また、世界的に有名な「ゲイ・エロティック・アーティスト」でもあります。
日本の昔のゲイアート研究のほか、フランス・アメリカ・イギリス・ドイツのゲイメディアでも活動。パリとニューヨークでは個展も開いています。
ぶっちゃけゲイカルチャーに触れている人で、彼を知らない人は、いません。
今でもTwitterなどを通じてゲイカルチャーを広めています。
ぼくには「クマ」に見えました
そんな彼の作品が今、月刊アクションの表紙を飾っている。
正直、かつて彼の作品を読んできた身としては、これは事件としか言い様がない。

父の弥一と娘の夏菜。二人の元に、マイクという名の一人の男性がやってきます。
彼は、弥一の双子の弟の結婚相手。つまりゲイ。
双子の弟は、死んでしまった。それで弥一の家を訪れました。
なし崩し的にマイクと弥一・夏菜親子の共同生活がはじまります。
マイクのデザイン、ぼくには「クマ」に見えました。
元々、田亀源五郎の描く男性は、ガチムチ系で全身毛が濃く、クマっぽいキャラも多いです。
それら普段の絵よりはソフト。髪の毛とひげは黒くなく、眉毛はへの字。じゃまにならないように小さくのそのそ歩く。
娘の夏菜が、マイクの胸毛を触って「毛がモジャモジャ!」なんてシーンは、まるでプーさんです。
しかし、父の弥一はまゆをひそめて「マイク、シャツ着て」と言ったあと、怒鳴ります。「夏菜! 寝る時間!」
弥一はものすごい悩まされます。
例えば風呂あがり。
ホモと見りゃ襲われる、なんてのは自意識過剰、と自戒。でも彼は、服を着ます。
外を歩いていた時、知り合いに出会います。
知り合いはデカいマイクを見て、「誰?」。
彼は答えます「弟の……友人です」。
マイクは本当にいい人で、弥一も嫌いではありません。夏菜は大好きです。
ただ、常に作中で目立つ。色使い、着る服装、大きさ。
クマのような彼を、夏菜は「カナダのおじさん!」と慕います。
でもどうしても弥一は、「ゲイ」の部分を受け止めきれない。
同性愛を思わず拒絶してしまうことは、罪に感じるかもしれない。
でも、受け止められないこともある。
今まで数多くのゲイを描き続けてきた巨匠が、わざわざこのように、異質として描いたのを読んで、ぼくはものすごく苦しかったし、「いいんだよ」と救われた気もしたんだ。
ピンク・トライアングルの服
さて、マイクは決して「ゲイ」であることを主張しません。
しかし彼も、はっきり語る瞬間があります。例えば結婚していた弥一の双子の弟とは、お互いに「ハズバンド」と呼んでいました。だって、どちらも「お婿さん」だから。
また表紙で彼が来ているピンク・トライアングルの服は、かつてナチス・ドイツで虐げらた時に着せられたマークで、今は転じてゲイライツやゲイ・プライド運動のマークになっています。
ソフトで優しい、家族を描いた作品。
その根幹には、ゲイであることの揺るがないプライドがある。
田亀源五郎『弟の夫』1
(たまごまご)