6月22日(金)放送の金曜ドラマ『あなたには帰る家がある』(TBS系列)。
やはり気になるのはタイトルのとおり、それぞれの「帰る家」の有無。ひとつずつ、振り返っていきたい。

前回、第10話で「太郎さんと、慎吾くんと、麗奈と私と、私たち4人で幸せになります」と宣言した真弓(中谷美紀)。それは本心ではなく、綾子(木村多江)に揺さぶりをかけて茄子田家に戻ってもらうためだった。
しかし、真弓の意に反して、意地になった綾子は秀明(玉木宏)のアパートに住みつく。茄子田(ユースケ・サンタマリア)は、真弓に対してまんざらでもなさそうな態度を見せ始める。
ここからは、見栄と意地の張り合いだ。
真弓は、綾子が勤めている食堂に行って、秀明の好物であるメンチカツの定食を注文。茄子田と一緒に海水浴場へ行くことを自慢する。綾子は、真弓が知らない秀明の人事異動の話をし、普段自分がいかに大切にされているかをアピールした。
でも、真弓は茄子田を好きではないし、綾子の話はほとんど嘘だ。虚無のぶつけ合い。
後半、秀明が口だけ男で中身が“無”であることを指摘されるシーンがあったが、真弓と綾子の会話の虚無っぷりもなかなかのものだった。
ただ結局、綾子は秀明を連れ、茄子田と真弓、慎吾、麗奈の姿を見に海水浴場へ来てしまう。楽しそうな4人を見て、不満げなような悔しそうな表情を見せていた。
後日、お弁当を届けに来た綾子は秀明に指摘される。
秀明「綾子さん、もう“ごっこ”は止めませんか。もうわかっているでしょう、一緒にいてもさみしさは埋まらないって」
綾子「それでもいいわよ。結局同じだもの、相手が誰だって。お料理をして、アイロンかけて、お花を育てて、良いところだけ見て自分を騙して、目をつむって暮らしていけばいいんだから」
相手が誰だって同じだと、いま一緒に生活してくれている人に言う人がありますか。
真弓といい綾子といい、自分にとってそこまで大切ではない相手にはズケズケと本音を言う。では、本音を言えなかった大切な相手は誰か。それは、それぞれの夫たちだ。
その後、4人はエレベーターに閉じ込められ、限界状況に追い込まれてやっと本音で話し合えるようになる。
これまで秀明ばかりが逃げていると思って見てきた。けれど、意地を張ったり気づかないふりをしたりすることで、みんな家族や配偶者から逃げてきていたのだ。
もう逃げられないぞ、とばかりに4人をエレベーターに閉じ込めた。この展開は、いじわるなようでもあるが優しさも感じる。さらに、ベタなシチュエーションでつい笑ってしまう。『あな家』らしいクライマックスだ。
秀明「夫婦になって、家族になって、いつの間にか空気になってたけど、空気がないと生きていけない。何年かかっても俺は、真弓のいる家に帰りたい」
秀明の「帰る家」は、空気のように真弓がいる家だ。そんな秀明に、真弓は「いまは空気がなくなってアップアップしてるけど、少しずつパパがいないことにも慣れていって、ちゃんと息が吸えるようになると思う」と返す。
真弓「生きてたらさ、上手くいくことばかりじゃないし、いろんなこと起こるから、そういうときに顔見たくなる人、声聞きたくなる人、『おかえり、大丈夫?』って言ってくれる人。場所じゃなくて、そういう相手が“帰る家”なんじゃないかなって」
真弓の帰る家は、まだ見つかっていない。
一方、茄子田と綾子の「帰る家」は茄子田家だった。
茄子田「相手が誰でも同じなんだろう。じゃあ、俺にしろ。お前のために変わるから。もう二度とお前を傷つけない。それでもし、いつか一瞬でも、たった一瞬でもお前が俺を愛してくれたら、それで俺の人生は満点なんだ。綾子、帰ってこい。一緒に家に帰ろう」
真弓に「どうしたら綾子が戻ってくるか」「どうしたら俺は変われるか」と繰り返し相談していた茄子田。手帳に、何ページにもわたって綾子が望んだ新居の間取りを手書きしていた。
元々は、綾子の意見も聞かず茄子田が自分の思い通りに作ろうとしていた新居だ。
真弓に「あんたも、自分が帰る家くらい自分で決めなよ」と促された綾子。「帰るわよ。帰ればいいんでしょう」と、ようやく折れた。綾子は、母が用意してくれた2人だけの遠足以来初めて、自分のために用意された居場所に帰ることができる。
思えば、放送前に初めて『あなたには帰る家がある』というタイトルを聞いたとき、不倫している人の恨み節だろうかと想像したものだった。
でも、それは違っていた。どんな人にもそれぞれに「帰る家」はある。だから、関わる人や自分自身と向き合って、探し求めていきましょう。
いまのところ帰る家がない状態の真弓と秀明。居酒屋で2人飲んでいると、酔った真弓が秀明にキスをした。ドラマが始まってから、初めてのキス! 秀明はそれを「ジェリコの壁」に例える。
ジェリコの壁は、映画『或る夜の出来事』(1934)に登場する、部屋を仕切る毛布のこと。同じ部屋に泊まる男女が、お互いの尊厳を守るため部屋の真ん中を毛布で仕切ったのだ。
真弓「うん、この距離が良い。この距離なら、パパが良く見える。近すぎるとさ、また見えなくなるから、いまはこの距離が良い」
いまは真弓の言うように一定の距離感を保って交流している2人。でも、もし真弓と秀明の間にあるものが本当にジェリコの壁であるならば、映画の結末のように、きっとまた同じ布団で眠ることができる日が来るはずだ。秀明のうぬぼれかもしれないので、油断ならないけれど。
名画になぞらえた小ネタ、コメディとシリアス(ホラーか?)の緩急。
ラストシーン、麗奈(桜田ひより)と慎吾(萩原利久)が、手を繋ぎながら1つのアイスを分け合って食べている。器用だな。
まだ恋人“ごっこ”をしているようにも見える、若く可愛らしい2人。これからどうなるのか、何かあったときに大人たちのように逃げはしないか、まだわからない。
寄り添って歩く麗奈と慎吾を見送り、真弓と秀明は笑顔で別の道に進む。どんな選択の先にも未来があると感じる明るいラスト。まさか不倫ドラマがこんな風に終わるとは。
最後まで我々を安心させることがない、最高に楽しいジェットコースターのようなドラマだった。
(むらたえりか)
【配信サイト】
・TBSオンデマンド
・Paravi
・TVer
金曜ドラマ『あなたには帰る家がある』(TBS系列)
原作:山本文緒『あなたには帰る家がある』(角川文庫)
脚本:大島里美
プロデューサー:高成麻畝子、大高さえ子
演出:平野俊一、吉田健、松田礼人
編成:高橋正尚
音楽:兼松衆
主題歌:Superfly「Fall」(ワーナーミュージック・ジャパン)