朝ドラ『カムカムエヴリバディ』最終週「2003-2025」

第110回〈4月6日(水)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』岡山の街を疾走するアニーが記憶のトンネルを抜けるように安子に戻っていく
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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マスク姿の虚無蔵が名言

最終週は2022年と2003年を行ったり来たり。

【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜110回掲載中)

2022年、映画村を歩くマスク姿のひなた(川栄李奈)。マスクの虚無蔵(松重豊)が現れて、「そなたが鍛錬し培い、身につけたものはそなたのもの。
一生の宝となるもの。されどその宝は分かち与えるほどに輝きが増すものと心得よ」と名言を語り去っていく。

『サムライベース・ボール』でハリウッドデビューしたあとも変わることなくマイペースで生きているらしい虚無蔵。俳優として活躍しながら後身の指導にも当たっているようだ。「矍鑠(かくしゃく)」としたという言葉がぴったり。

2003年、クリスマス・ジャズ・フェスティバルの客席でおはぎを食べる和子(濱田マリ)
健一(世良公則)お気に入りの店のもので、フェスの協賛もしてくれているという。その店は「たちばな」。安子の生家の店と同じ名前である奇縁。

『カムカム』の音楽担当の金子隆博がフェス参加者としてピアノを弾いてる。音楽担当の人物が劇中に登場するのは『あまちゃん』での大友良英の出演を思い出す。金子はサックス奏者だったが、あるとき吹けなくなる病に罹(かか)りピアノに転身したそうで、錠一郎(オダギリジョー)と重なる。


アニー、走る

そしていよいよ錠一郎とトミー(早乙女太一)の演奏。彼らが奏でる軽快な曲は、若き日のふたりのセッションで演奏したもので、『妖術七変化』の映像とカットバックしたところがとてもおもしろかった。今回は、アニー(森山良子)とひなたの追走劇とカットバック。ついでに、一子(市川実日子)のお茶を点てるシーンも挿入された。

一子はるいに「意味があるかないかわからんことをやる。誰かのことを思うてやる。それだけでいいんとちゃう?」と諭す。
るいにとっては一子が虚無蔵のようなもの。一子も虚無蔵も「茶道」「武道」と「道」を行く者である。

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』岡山の街を疾走するアニーが記憶のトンネルを抜けるように安子に戻っていく
写真提供/NHK

アニー(安子)も「道」を行く。視聴者誰もが唖然となった、アニーの長距離激走。『あさイチ』では博多大吉が「ルパン」に例えるほどの健脚っぷり(アニーの赤いコートとルパンの赤ジャケが重なる)に、ひなたは「鍛え方が違う」と感心する。たしかに戦争体験者の世代の足が違うのは、故・蜷川幸雄主宰の高齢者劇団・ゴールドシアターの俳優たちを見てきた筆者には実感がある。
彼らは土踏まずのアーチがしっかりしているのである。いっぱい歩いた証拠だと思う。

いくらなんでもアラフォーのひなたが70代のアニー(安子)に追いつかないのはひなたが運動していなさ過ぎであろう。でもこんなツッコミは無粋である。アニーこと安子は50年ぶりくらいに来た故郷・岡山を走る必要があった。



思い出の偕行社から商店街を抜け、岡山城、神社……と長い商店街は記憶のトンネルであるかのように、アニーという嘘の衣裳を脱いで安子に戻っていく儀式のようだ。
50年離れていたなつかしい土地を目だけでなく足の裏から感じることは並大抵の感慨ではないだろう。愛しい故郷、愛しい人たち、帰って来たかった場所への想いをこの全力疾走で見せる。追いかけるひなたは肉体の辛さを通して安子の痛みを体感するのだ。

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』岡山の街を疾走するアニーが記憶のトンネルを抜けるように安子に戻っていく
写真提供/NHK

安達もじり演出は、旭川、淀川、賀茂川を、嵐電の線路を、商店街を使って、時の流れを静かに可視化させてきた。普段は見えないけれど、じつは一本の「道」が私達の前にも後ろにも繋がっている。

それにしても、安子をこれだけ追い詰め遠ざけたるいの拒絶(I hate you)。
あのとき、るいはるいで勘違いとはいえショックだったのだろうけれど、罪深いことをしたものだ。このまま安子が走りすぎてばったり息絶えてしまったらどうしよう。るいは歌うことですべて洗い流すことができるだろうか。あと2回!
(木俣冬)

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番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時00分~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時00分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時00分~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時00分(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時00分~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami