朝ドラ『カムカムエヴリバディ』最終週「2003-2025」

最終回〈4月8日(金)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり〉

『カムカムエヴリバディ』金太の味が引き継がれたおはぎに懐かしい顔ぶれ 奇跡と輝きに満ちた最終回
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます


「Let's enjoy kaitenyaki together」

最終回。回転焼きの名前のごとく、ぐるりと回って1925年の安子(上白石萌音)からはじまる物語は、孫のひなた(川栄李奈)が2025年に新しくはじめたラジオの英語講座のテキストだった。

【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜最終回掲載中)

安子(森山良子)のすすめでアメリカで英語と映画を学んできたひなたは帰国後、彼女の家族3代の物語を英語で書いた。
それをやさしい音色で読むのは、ドラマのナレーションをしていた人物(城田優)だった。彼はウィリアム・ローレンス。通称・ビリー。子ひなたが淡い想いを抱きながら、英語で会話することができなかった人物――。

「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」が流れるなか、「Let's enjoy kaitenyaki together」とひなたはあの日、言えなかった言葉をビリーに語りかける。「メリークリスマス・ミスター・ローレンス」(『戦場のクリスマス』より)とは呼びかけなかったけれど。


クリスマスの奇跡がたくさんあった『カムカム』は最後の最後まで「クリスマス」が関係して見える。2025年、桃太郎(青木柚)が継いだ「大月」ではクリスマスのお人形がお尻を振っていた。

申し分なかった安達演出

るい(深津絵里)は少女のとき言えなかった言葉「I love you」を安子(森山良子)に言えた(第111回)。ひなたや安子のように、言えなかった言葉を言うことができる。錠一郎(オダギリジョー)虚無蔵(松重豊)五十嵐(本郷奏多)や桃太郎のように挫折しかかったことが後々叶う。人はもう一度やり直すことができる。それはどんなに時間がかかっても。


時間は一本道ではなく、立体ジャンクションのようになっていて、運命や縁はぐるぐると回って、歩き続ければ一度離れてもまた戻ってくることがある。戦後、金太(甲本雅裕)のおはぎを盗んだ少年は金太の味を引き継いで「たちばな」として和菓子屋となり、まわりまわって運命のクリスマス・ジャズ・フェスティバルに協賛していた。

コワモテの田中(徳井優)と血縁なのかわからないそっくりの人物が一子(市川実和子)の夫であった。きぬ(小野花梨)の孫・花菜(小野二役)は桃太郎と結婚。モモケン(尾上菊之助)が「おゆみ、待たせたな」とすみれ(安達祐実)と結婚(黍之丞を慕っていたおゆみという伏線であった。伏線とはこういうのがベスト)。
きぬの孫を「きぬちゃん」、小夜吉を「吉右衛門ちゃん」と見間違えた安子は100歳でも健在。ひなたは60歳独身だが30代のように若々しく、ビリーとの関係にも希望があるように見える。

世界がこんなにも向こう三軒両隣くらいに狭く繋がっていて、こんなにも満ち足りていると、逆に怖くなって第111回まで溢れていた涙が引っ込んだ。ただ、この涙が乾くことこそが肝要なのだ。特別な物語は特別だからこそ終わるという物語のルールを『カムカム』は知っている。台本もそうなっているだろうし、チーフ演出の安達もじりさんのはしゃぎすぎない上品な演出が日常に戻してくれた。
安達演出は上品で知性的で、ユーモアもあって申し分なかった。



『カムカムエヴリバディ』金太の味が引き継がれたおはぎに懐かしい顔ぶれ 奇跡と輝きに満ちた最終回
写真提供/NHK

エンド5秒では、上白石萌音と深津絵里と川栄李奈の3ショットを「京都市 赤螺吉右衛門さん」の撮影クレジットで掲載することで、『カムカム』は“善き物語”として幕を閉じた。

物語は祭りだ。そこでは誰もが幸せになり、サプライズがあり、これでもかと盛り上がり、ひととき楽しんで終わっていく。物語という非日常が終われば、いつもの日常が待っている。だからこそ、物語は特別であり大切なのだ。
世界がこんなにも満ち足りてあたたかい陽の光に包まれていたらどんなにいいか。祭りは祈りだ。世界が素敵でありますように。祈りながら sing a song。バーイ。
(木俣冬)

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番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時00分~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時00分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時00分~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時00分(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時00分~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami