患者の体内に残されたペアンにようやくたどり着いた渡海(二宮和也)。
取り出した直後に血を浴びた。
「地獄の扉を開けたな!」

ブラックペアン10話
「チャンスは一度きり、そこで全てが終わる」
東京で行われる理事長選に佐伯教授が出席するタイミングを利用して、飯沼達次の体内にあるペアンを取り出し、佐伯の医療過誤を公にしようと企む渡海。藤原婦長に木下も「邪魔はさせません」、猫田も花房に「必要ないの、邪魔!」。渡海の口癖「邪魔」がそこかしこで聞こえてきたブラックペアン最終回。
「ちなみに、教授の心臓、まだ完治してませんから」
9話の最後で、渡海の声が消されたセリフはこうだった。
「揉み消してやるよ」どころではなく、渡海も知らないもっと深い事情があった。
渡海は、父親が医療過誤をなすりつけられて病院を追われたと思っていたが違った。飯沼の体内に残されたペアンは、置き忘れではなく留置。特別な事情があった。父親は実は自ら去ったも同然。自身の病状のこともあったけど、なにより佐伯を残すためだった。
9話の最後で、佐伯教授が「ブラックペアンを使えるのは世界で一人だけだ。今のお前に譲るわけにはいかない」と言っていて、“今のお前”が引っかかった。このところ、渡海は父のために佐伯への復讐心が大きくなっていた。
ペアンを取り出して医療過誤の事実、父親の濡れ衣を晴らすべく強行突破した渡海。東京にいるはずの佐伯もドクターヘリで駆けつけ、目の前でペアンを取り出した。
「親父、もうすぐ終わるぞ」
渡海はこのために生きてきた。腕のない医者に声を荒げたことはあったけど、これほど自分の感情をむき出しにしたことはなかった。実家に残された異常な数の外科結びの跡、たまごかけご飯。佐伯への恨み、父を失った悲しみと苦しみをずっと抱えて生きてきたことが伝わってきたシーンだった。
改築工事を控えた旧館の前でたばこを吸っていたのは、父と語り合った思い出の場所だったから。
「お前はどんな医者になりたいんだ」
「普通の医者でいいよ」
「どんな時代になろうと人は変わらんが、医者は医者だ。おまえはそのままでいい普通の医者になれ」
「なんだよ、それ」
親子揃ってたばこを吸いながら、なんでもない会話を交わしたことが今となっては嘘みたい。「普通の医者でいい」と言っていた息子が、数年後には咥えたばこで「地獄に落とすか…」。
これまで何度か喫煙シーンが登場したが、渡海はたばこを習慣として日常的に吸っていたように見えなかった。ときどき暗闇で一人、たばこを吸っていた渡海を思うと泣けてくる。
ペアンの一件を経て、旧館の前に戻ってきた渡海。ぐったりしながらも、憑き物が取れたようにダークヒーローの面影はなく、「普通の医者」らしい顔つきだった。
尊敬する医者の言葉
「親父が全てを失ったペアンで、今度はお前が全てを失うんだよ」
「やめろ、それを外すな」
佐伯教授の制止もきかず、渡海がペアンを取り出したら血が噴き出した。留置したのには理由があった。ブラックペアンは佐伯教授の“最高峰の技術”の象徴に見えていたけれど、佐伯自身の戒めでもあった。
「そのままでいい、普通でいい。医者は患者のことだけ考えろ。救え。ただ人を救え。俺の尊敬する、尊敬する医者の言葉です」
渡海は最後に佐伯に深々と頭を下げて去った。
“オペ室の悪魔”、“ダークヒーロー”という位置付けだった渡海。天才外科医は努力の天才で、いつも答えはシンプル。
二宮は以前、雑誌のインタビューで自分の人生を一言では語れないように役柄も一言では語れない、という発言をしていた。それが公式サイトで紹介されていた数々のアドリブにつながっていたのではないか。マスクを着用した上での演技も多かったが、渡海の性格上、表情を大きく変えることは少ない変わりに、声を上手に操っていたのが印象に残っている。
「とりあえず腹減った、米炊いてこい」
渡海から命令されてご飯を炊きに行った世良。その隙に渡海は病院を去った。世良は、たまごかけご飯を「渡海先生と食べるって決めてるんです」と、かなり根に持っている様子。
続編がないと気持ちのおさまりがつかないのは、世良くんだろう。
(柚月裕実)
【配信サイト】
・Paravi
・TVer
日曜劇場『ブラックペアン』(TBS系列)
原作:海堂 尊「新装版 ブラックペアン1988」(講談社文庫)
脚本:丑尾健太郎
音楽:木村秀彬
主題歌:小田和正「この道を」(アリオラジャパン)
医療監修:
下川智樹(帝京大学医学部附属病院)
山岸俊介(イムス東京葛飾総合病院)
須田康一(慶応義塾大学病院)
取材協力:吉田成彦(イムス東京葛飾総合病院)
医療用ロボット監修:渡邊 剛(ニューハート・ワタナベ国際病院)
プロデューサー:
伊與田英徳
川嶋龍太郎
峠田 浩
演出:
福澤克雄
田中健太
渡瀬暁彦
制作・著作:TBS