朝ドラ『カムカムエヴリバディ』最終週「2003-2025」

第111回〈4月7日(木)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり〉

『カムカムエヴリバディ』家族が一つになり、3つの道も一つになった今日のタイトルバックに込めた思い
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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歴史が変わる

クリスマス・ジャズ・フェスティバルの会場に来たものの、ひなた(川栄李奈)にみつかって逃げ出したアニーこと安子(森山良子)。ひなたは思い出の神社まで来て倒れてしまった祖母を追いかけ、背負って会場につれていく。

【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜111回掲載中)

その頃、るい(深津絵里)は傷のある額をあげてステージに立って「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」を歌う。
ルイ・サッチモ・大月という名前で。

演奏は30年前の錠一郎(オダギリジョー)のトランペットの音源だった。かつてのトランペットの音といまの錠一郎のピアノが出会ったとき、安子とるいも50年ぶりに抱き合う。あの別れの日、土砂降りの雨に打たれ、ずぶ濡れの安子(上白石萌音)の前で扉をぴしゃりと閉めたるい。それが今、扉はついに開かれ、雨上がりの中、母娘の気持ちが通じ合う。

演出を担当した安達もじりさんは、ここを晴れにするかどうか迷ったそうだ。

天気は台本上には書かれていなくて、これどっちやろ、以前どおり雨にするかどうしようとぎりぎりまで悩みました。


映像ではそこまでわからないかもしれませんが、安子の後ろの木を濡らして、雨上がりの設定にしました。ここは晴れてほしいなあと最後は希望を描きました。

扉を閉める画と開ける画、安子編のときにまとめて撮ったのかと思ったら、追加撮影だった。
アメリカに渡ったあと、ロバート(村雨辰剛)と暮らしているシーンと、扉を開けたるいと抱き合うシーンでの上白石萌音さんの登場は台本にあったシーンで、藤本さんの構想によるものです。全編クランクアップの数日前に撮らせてもらいました。

上白石さんは半年ぶりに『カムカム』の現場に入って涙ぐんでおられました。半年も経過してからまた安子になれるか不安がられていましたが、「完璧に安子です」と言ったら安心してくださってました。


撮影には深津さんと川栄さんも来てくださいました。ようやく3人が現場でそろうことができて、これが上白石さんのホントの撮りきり(クランクアップ)の日になったかなという感じがしましたし、ご本人も「帰りたくない」と言われるほどで、名残惜しみながらもいい時間を過ごしました。

時間は不可逆。過去は変えられない。
そう思い込んでいる私たちだけれど、いまを変えれば、未来のみならず、過去もひなたに変えることが可能なのではないか。思い込みを解くことで見えるものが変わっていく。

撮影時、上白石、深津、川栄がじつは集まっていた回、タイトルバックも3人が一つになった。これまでは、一本の道が3つに分かれ、3人の人物がそれぞれの道を歩いていったが、111回だけは3つの道が一つに。これもまた歴史が変わったことの象徴のようだった。これはタイトルバックを制作した演出の深川貴志さんの発案だ。

最後にお届けするオープニングは、その日の内容的にも、3人の道が一つにつながっていくような雰囲気を感じていただきたかったです。放送が進むなかで、タイトル制作でコマドリストの竹内泰人さんとプロデューサーの増田悠希さんと「毎回オープニングを見てくださっている視聴者の皆さまに何か感謝の気持ちを表わせないか」という話をしていました。


その反面、“このドラマの中心でもある「つながり」を見事に表現したオープニングは変えるべきではないのでは?”という気持ちもあり、考えあぐねていたところ、3月15日に高瀬耕造アナウンサーの「オープニングの中で3世代、3人が並んで歩いている場面があるんですよね」というような発言を耳にしました。それを受け、3人が歩く道に焦点を当て、仕掛けを作り上げることにしました。



こうして出来たタイトルバックを見た制作統括・堀之内礼二郎さんも満足を述べた。
あのタイトルバックは、安子・るい・ひなたを直接的に描いているのではなく、多くの方々に自分の人生のように感じてほしいという願いをこめていました。3つに分かれていくカットには、普段は想像しないかもしれませんが、どんな人にもこれまで歩んできた人生があって、経験してきたことや紡いできた思いがその人の世界やその人自身を形作っているんだという、人生への賛歌のようなイメージを感じていました。


それに対し、スペシャルバージョンのカットは、あの3人が初めて安子・るい・ひなたの3人に感じました。3人の道が一つになるのを見て、家族がついに一つになれたような思い、そして3人がひなたの道を歩けるようになったんだという、そんな感慨を感じました。

離れ離れになっていた家族が一つになり、稔(松村北斗)の願い「どこの国とも自由に行き来できる」ことが『サムライ・ベースボール』で叶った。分かれた道が一つになるタイトルバックは、アメリカと日本、別々の国が一つになったことも表して見える。とくにウクライナ戦争が起こっている現実を思うと、稔の願いはいっそう強く胸に響く。
ひとりひとりの道が自立しながらときどき交錯する、そんなしなやかな生き方ができればいいと願わずにいられない。この世界が終わる前に、仲良くなれるといいなという主題歌「アルデバラン」の森山直太朗による歌詞が染みる。

『カムカムエヴリバディ』家族が一つになり、3つの道も一つになった今日のタイトルバックに込めた思い
写真提供/NHK

この回、個人的に好きな場面は二つ。一つは勇(目黒祐樹)と安子が神社で会話する場面。アニー=あんこ は勇が彼女をからかっていた子ども時代の名残であった。あの頃、あんなにいやがっていた安子が勇のあだ名を偽名に使っていたこと。
それを聞いた勇の笑顔。少年時代に戻ったようで、目黒祐樹、名優である。終盤の癒やしは彼の演じた勇であった。

もう一つは、安子がシアトルで生活しているおだやかな場面。衣裳や小道具と上白石萌音にアジア映画のような雰囲気があって心地よかった。やはりローズウッドさんと再婚してたんだと思うと稔を思って少しだけ胸が疼いたが。


あと1回!
(木俣冬)

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番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時00分~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時00分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時00分~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時00分(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時00分~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami