朝ドラ『カムカムエヴリバディ』最終週「2003-2025」

第109回〈4月5日(火)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第109回「お母さん…お母さん…」演出家が見た深津絵里の圧倒的演技
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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やっぱりアニーは安子だった

2020年、ひなた(川栄李奈)は2年ぶりに日本に帰ってきた。コロナ禍で帰って来ることができなかったのだろうか。コロナについては言及されていないが、マスクをしているのでわかる。

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NHKの小川未来(紺野まひる)という人物が英語講座を新しく作りたいとひなたに面会を求めてきた。キャスティング・ディレクターとして活躍するひなたが載った雑誌の隣ページにアクション監督・五十嵐(本郷奏多)がカッコよく写っている。ひなたと五十嵐は結婚できなかったけれど、映画を作る仲間として活躍している。

小川未来は安子(上白石萌音)がラジオを聞かせてもらっていた小川さんの子孫である。「どこかの子連れのお母さんと一緒に」の子連れのお母さんは、るい(深津絵里)を連れた安子であることをひなたも小川も知らない。視聴者だけが知っている。

過去はたしかに現在に影響を及ぼしている。その魔法は2003年のクリスマスに最大の力を発揮していた。

2003年、岡山でのクリスマス・ジャズ・フェスティバル。待機場でひなたが磯村吟(浜村淳)のラジオを聞いていると、アニー(森山良子)が『サムライ・ベースボール』の宣伝で出演し、映画の話題から『棗黍之丞』の話に繋がる。それを観たと話すアニーはいつの間にか日本語になっていた。日本語からさらに岡山弁に――。

ラジオから流れてくる母の想いを思いがけなく聞くるい。このときの深津の演技を演出の安達もじりさんは「ほぼ一発撮りでしたが、深津さんの芝居が圧倒的で、震えながら撮りました」と絶賛した。

驚いて固まって、徐々に涙を流し、「お母さん…お母さん…」と居ても立っても居られず部屋をぐるりと歩く。制御できない感情を鮮やかに演じた深津も凄いが、ここはこの場面にいる全員が見事。

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第109回「お母さん…お母さん…」演出家が見た深津絵里の圧倒的演技
写真提供/NHK

るいの隣で彼女の変化を見守る錠一郎を演じるオダギリジョーは控えめながら的確な表情をしている。川栄と桃太郎役の青木柚は冷静に行動するしっかり者の子どもをでしゃばり過ぎずに演じている。

そしてなんといってもトミー役の早乙女太一。彼はこの状況で最もアウェイなのだが、部屋の真ん中に座ってしまっていて、あらゆるカットに写り込んでしまう。彼が主体の場面ではないにもかかわらず、非常に居づらいポジションだ。そんなとき彼はうまく身体をねじって気配を消す。こうすることでトミーもいろいろ感情が湧き上がっていることがわかるのだ。早乙女太一、舞台をやってきた鍛錬の賜物であろう。

と冷静にレビューしているが、薄々わかっていたアニーが安子であったことがラジオで明かされることには涙が出た。その前の小川未来の登場ですでに泣けた。どうしてこんなに泣けるのか。それだけ安子編に強度があったからにほかならない。安子が懸命に生きてきた時間、その懸命さが報われることがなかった哀しみは時が経っても色褪せない。

近年、歴史を風化させないためにと昔のモノクロ写真をカラー化する試みが盛んに行われている。『カムカム』こそ過去に色をつけ、現在と接続させることに成功した試みといえるだろう。過去を蘇らせる魔法――それは物語の持つ力である。

稔(松村北斗)との真剣で純粋な恋、るいへの強い愛情が長年封印されていた分、暴れる龍のように激しい渦のように安子の心から溢れ出した。アメリカに渡り、アニー・ヒラカワとして経歴を詐称して生きてきた安子。これだけの想いを抑えてきたことはどんなに苦しみを伴ったことだろう。


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