朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第22週「2001-2003」

第105回〈3月30日(水)放送 作:藤本有紀、演出:深川貴志〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第105回 デイジーって誰やねん。五十嵐との再会は「運命」じゃなかった
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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ほんのりお化粧してBARへ

今日ほど『あさイチ』の朝ドラ受けがすっきりしたことはない。「そりゃないよ」にはじまって、虚無蔵の台詞をもらった「解せぬ」と言う博多花丸大吉の反応は的ど真ん中なものだった。

【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜105回掲載中)

ハリウッド映画『サムライベースボール』の出演のオファーを頑なに断る虚無蔵(松重豊)に、五十嵐(本郷奏多)は昔もらった木刀を突きつける。


「虚無蔵さんこそサムライなんです」「サムライなら時代劇を救ってください」と五十嵐は迫り、アニー(森山良子)も厳かに座礼(土下座?)。拒否できなくなった虚無蔵とスタッフの前で殺陣を行う五十嵐。それはあの『妖術七変化』のクライマックスの殺陣だ。かつて五十嵐はリメイク版のオーディションで左近側をやったのみで、黍之丞(尾上菊之助)側をやっていなかった。それを10年ぶりにやって、ついに虚無蔵を斬る。

虚無像は見事な斬られ役の型を見せる。
何年たっても健在。いやむしろ、さらに磨きがかかって見える。「虚無蔵さんこそサムライなんです」「サムライなら時代劇を救ってください」まったくそのとおり。時代劇を救うのをひなた(川栄李奈)に任せっぱなしではなく、積極的に虚無蔵が活躍すべき。活躍したくてもスター俳優ではないという彼なりの遠慮もあったのだろうけれど。だからこそハリウッドで認められることは素敵なことだ。


虚無蔵相手に見事な殺陣を見せた五十嵐。鍛錬して立派になった彼を見て、ひなたがこの再会は「運命」ではないかと心揺らしていると、飲みに誘われる。

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第105回 デイジーって誰やねん。五十嵐との再会は「運命」じゃなかった
写真提供/NHK

着る服に迷い、赤い口紅をつけて、BARに向かうひなた。BGMはるい(深津絵里)が階下の店のラジオで聞いている、しっとりした南こうせつの「夢一夜」である。

ジャズバーのようなところで互いの健闘と成長を称え合うひなたと五十嵐。だがそこで五十嵐から出た言葉は――。


五十嵐「ひなた、俺、結婚するよ」
ひなた「え、だ、誰と?」
五十嵐「デイジーと」
ひなた「デイジー……」

デイジーとは現場に同行していた衣裳スタッフである。飲みに誘われる前、現場で五十嵐が足袋に関して打ち合わせしているところをひなたも目撃していた。

ひなたが肩透かしを食らう場面、川栄李奈が志村けんに見えた。この展開、セットの雰囲気も相まって、しっとりした音楽でムードが高まり、その気になった人物が、独り相撲で肩透かしを食らうという志村けんのサラリーマンコントそのものである。川栄李奈が見事にその悲哀を演じていた。しかしなぜここをコント調にしてしまったのだろうか。
本当に「解せぬ」。

鈍い五十嵐。けっきょく、自分のことしか考えていない五十嵐に「誰かいい人いないの?」と聞かれ、「私はいまは仕事が楽しい」と答えるひなた。これはもう答えるしかない状況に追い込まれただけで、彼女が自ら仕事を選択したとは言えない。でも五十嵐はひなたをクールでカッコいいと言う。こんな五十嵐なら、ひなたは彼と別れて正解である。


この10年鍛錬して、アクション監督の道を歩みはじめてようやく自信を持ち、虚無蔵と手合わせして、ある意味、父と対等になり(超えたとは言えないだろう)、衣裳担当のデイジーと結婚する決意を固めるわけだが、五十嵐は他者に誇れる仕事をすることをアイデンティティにしているだけで、ひなたのことをまったく考えていない。おそらく、過去も、自分のためにひなたに支えてほしかっただけなのだろう。だからこそ別れて正解。「運命」なんかじゃなかった。



朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第105回 デイジーって誰やねん。五十嵐との再会は「運命」じゃなかった
写真提供/NHK

五十嵐がこんなふうに思われるキャラに育って不憫だなと思ったし、泣き笑いコントの道化のようなひなたもちょっと不憫だ。10年前、風鈴をたあ!と断ち切ったところでもう十分描けていたのに。


ただ、人生はそう簡単ではなく、何度も何度も迷いが襲ってくるもの。仕事一筋がんばって三十代半ばになったひなたが、ふとこれで良かったのかと立ち止まり、これでいいのだと自分を納得させたのだと思えば悪い話ではない。ここでの五十嵐は“実体”ではなく、ひなたを惑わせる「結婚すべき」という世間の“幻想”の象徴だったのだろう。

なお、五十嵐とひなたについて、作り手はどう考えていたか、ヤフーニュース個人で、演出担当の深川貴志さんに取材しました。ご参考までに。

〈カムカムエヴリバディ〉ひなたと五十嵐の結末が「解せぬ」。彼はなぜ再登板したのか。<ヤフー個人>
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪






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番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時00分~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時00分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時00分~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時00分(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時00分~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami