朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第22週「2001-2003」
第104回〈3月29日(火)放送 作:藤本有紀、演出:深川貴志〉
※本文にネタバレを含みます
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結婚も出産もしないヒロイン
「歌は世につれ世は歌につれ」という言葉があるが、朝ドラは世につれ世は歌につれ。アカデミー賞の作品賞はその時代の世相が表れている。歴代の朝ドラを見ても時代がわかる。朝ドラ『オードリー』(2000年度後期)は最終回までヒロインが結婚も出産もしなかった。そんなヒロインにひなた(川栄李奈)は自分の人生を重ねる。『オードリー』の最終回は2001年3月31日で、ひなたは4月4日に36歳になろうとしていた。
【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜104回掲載中)
自分のこれからを迷っていると、目の前に過去(五十嵐 / 本郷奏多)が現れ、心揺らすひなた。一緒に道場の雑巾がけをしながら(このとき風鈴が鳴るのがエモい)、10年前のまだ何者でもなかったがキラキラしていた頃に戻りたい気持ちになる。
家で英語の練習をしながら、ダブルカセットの巻き戻しボタンと早送りボタンとで指をうろうろさせるひなた。行くか戻るか迷うように。
そんな彼女に「後悔のない道を選びなさい」と助言するのはアニー・ヒラカワ(森山良子)。彼女もまた過去を巻き戻そうとしているように見える。
ホテルでひとり、ラジオの英語講座を聞いていると、その声はいつの間にか平川唯一(さだまさし)になっている。アメリカで生まれ育った日系アメリカ人である彼女の脳裏に平川唯一の英語講座が浮かぶということはどういうことか。彼女の名前が「ヒラカワ」であることと関係あるのか。
現実では平川唯一の娘がアメリカで仕事をしていた。だからアニーは平川唯一の関係者という可能性もある。だが、ひなたは、母・るい(深津絵里)にも話せなかった五十嵐と再会したことをアニーにだけは話せた状況は、血が繋がっているから? ……などと軽い考察を楽しめる。でもアニーは「ひなた」という名前をラブリーネームと褒めるが、「サニーサイド」と反応することはない。
アニーと虚無蔵
アニーたちが帰国する日、ひなたは回転焼きを差し入れに持ってくる。普通に考えるとまず最初に差し入れそうだが、物語の進行上、この時期になるのだろう。これをアニーが食べて……となるか。それより無理を感じるのは、アニーが念願の虚無蔵(松重豊)に偶然会うこと。それまでずっと彼をキャスティングしたいと連絡していたが、虚無像に無視され続けていた。でも彼が撮影所の所属であれば会社の俳優担当に連絡すれば済むことだ。それとも虚無像はフリーなのだろうか。フリーにしてもこれだけ撮影所に頻繁に出入りしていたら会えるだろう。アニーももっと早くからひなたなり誰かなりに虚無蔵に会いたいと相談したらいいわけで。
だがもはやこのあたりをしっかり辻褄合わせて書く余裕はもうないのだろう。それよりもアニーがホテルから電話をしきりにかけていた相手は誰か?という興味も連ドラとしては残しておきたかったのだろう。
あとはもう安子(上白石萌音)とのことが決着つくことだけが命題だろうから、できるだけきれいなフィニッシュを決めるためにがんばって話をまとめているところであって、ともすればまとめに入ってだれてしまうところを飽きさせないように今、最後の難関を走っているところだと思う。ここを必死であがくか、なんとなく気楽に流すか、それに作り手の人間性がのぞく。
ところで。今日からセットが変わった『あさイチ』では、トミーこと早乙女太一がゲスト出演。早乙女太一って触ると切れそうなイメージだったが、すっかり柔らかい雰囲気になっていて驚いた。
(木俣冬)
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番組情報
連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
2021年11月1日(月)~<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時00分~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時00分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時00分~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時00分(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時00分~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送
制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
作:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」
木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami