朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第13週「1964-1965」

第62回〈1月28日(金)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第62回 一子が結婚 そしてるいとジョーはついに「親」に
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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何にもできひんジョーと赤ちゃんのできたるい

るい(深津絵里)ジョー(オダギリジョー)が京都ではじめた回転焼き屋は一子(市川実日子)の顔利きで軌道に乗った。とはいえ、働いているのはほぼるいのみ。ジョーは何もできない。
経済観念もなく、買い物に行ったら高価な鯛を買ってきてしまう。

【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜62回掲載中)

戦災孤児で貧しかったはずなのに、この経済観念のなさがよくわからないが、子どものときに我慢していたからか、大人になってある程度お金が入るようになったとき、目についたものをつい買ってしまうようになったということなんだろうか。少年ジョーはもっと野生児的で敏(さと)そうだったのに、成長したらすっかり牙を抜かれたほわんとしたキャラになってしまった。

るいは、ジョーの本職はトランペッターだから「ほかのことなんかできんでもええ」と思っていたが、想像を超えたジョーの生活力のなさに驚く。ケチャップをこぼすような人物なので不器用なんだろう。「朝ドラ名物」お父さんや夫が一般的な生活力がないというパターンになってきた。


ジョーの愚痴(?)を一子の茶室(「一子の部屋」とスタッフ感では呼ばれているらしい)でお茶をいただきながらおしゃべりする。「朝ドラ名物」たまり場は喫茶店が多いが、茶室って新しい。

一子はるいとジョーを心配し、日本舞踊のお師匠さんの息子と結婚することになったのでその結婚式に回転焼き200個を請け負ってほしいと頼む。

るいは配達のために自転車を手に入れようと考えるが、ジョーは自転車を漕ぐこともできなくて……。

鴨川の河原でるいに教わって自転車の練習をはじめるジョー。岡山の旭川での安子(上白石萌音)稔(松村北斗)との自転車練習シーンと同じカットを意識して撮っているそうだ。


ジョー「後悔してる? 何もできひん僕と一緒になって」
るい「そないなこともういっぺんでも言ってみ。すぐ離婚やで」

おずおず聞くジョーとすっかりしっかり者になっているるい。ジョーのこの弱々しさは未熟な若者あるいはトランペットという牙を抜かれた者の表現なのだろう。るいはたとえジョーが何もできずとも怒りも泣きも絶望もしない。むしろ幸福である。この様子に業田良家の名作漫画『自虐の詩』を思い出した(中谷美紀と阿部寛で映画化もされている)。
ただし『カムカム』の夫は暴力的でないから救われる。



朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第62回 一子が結婚 そしてるいとジョーはついに「親」に
写真提供/NHK

るいは穏やかにジョーを受け止めている。自転車も、ジョーのできる仕事を模索してのことだった。そう、できないことを無理してやらせようとするのではなく、できることを探して提示すればいい。いい話なのだが、意識して見ていないと、ついつい中年夫婦の物語として見てしまうので、集中力が必要だ。

おまけに吉右衛門役の堀部圭亮も本当はまだ若い設定なのに、アラフィフくらいで独身なのかと思って見てしまい、母親・清子(松原智恵子)の心配がいっそう深刻に感じてしまう。


なんてことを思っていると、ついにるいが妊娠。岡山の高校が甲子園で初めて優勝し、桃山剣之介の息子・団五郎(尾上菊之助が二役)が2代目・桃山剣之介を襲名した日に出産する。自由に思いきりドラマティックに設定できるのはモデルのいないフィクションの強みだ。

中古の自転車を斡旋した蕎麦屋の娘・初美(宮嶋麻衣)は若い清子にそっくり(宮嶋が二役)というサプライズもあった。
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪







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番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami