朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第13週「1964-1965」
第61回〈1月27日(木)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり〉

※本文にネタバレを含みます
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吉右衛門が堀部圭亮だった
岡山の旭川から大阪の道頓堀川、そして京都の鴨川へ――。新婚のるい(深津絵里)とジョー(オダギリジョー)が京都で回転焼き屋をはじめた。「回転焼きの大月、ただいま開店しました」とは、るいなりのダジャレなんだろうか。そして「回転」という言葉のように時代が巻き戻っていく――。【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜61回掲載中)
ジョーは斬新な絵を描いた店のチラシを配りに行った先で、荒物屋の主人・赤螺吉右衛門(堀部圭亮)と出会う。岡山で安子の幼馴染だった吉右衛門である。赤螺家は岡山と同じように商店街のどんつきに店を構えていた。
だが、吉右衛門はだいぶ変わっていた。「昔は素直な良い子だったのに。年々お父ちゃんに似てくるんやさかい」と母(松原智恵子)に言われるほどに。ゆったりと丁寧口調でものごとの道理のわかった吉右衛門が大人になって父親の・ケチ兵衛こと吉兵衛(堀部)のようにケチになっていた。あの良い子だった吉右衛門がケチ右衛門になってしまうとは血の繋がりっておそろしい。
荒物屋にはテレビがあって、ジョーはそこでモモケンこと桃山剣之介(尾上菊之助)の訃報を知る。49歳とはまだ若い。彼のデビューの年に生まれた吉兵衛はあの駄作と言われる『妖術七変化 隠れ里の決闘』が遺作になるとは……と嘆く。あの映画のインパクトをまだ引きずっているジョーはおもむろに吉右衛門と一緒にチャンバラごっこをはじめる。
その頃るいは、回転焼きに懐疑的な一子(市川実日子)に「うちのあんこは絶品ですから」と実物を食べてもらうことにする。京都の人間は馴染みのないものに手を出さないから商売は難しいであろうと酒屋の主人・森岡新平(おいでやす小田)に言われたるい。実際、開店初日は芳しくなかったが、「大丈夫、なんとかなる」とるいは根拠なく鼓舞する。
でも一子も同じ意見。しかも一子はお茶菓子で舌が肥えている。そんな一子が「受けて立ったるわ」とるいの作った回転焼きを食べるシーンと、ジョーと吉右衛門のチャンバラがカットバック。これは第54回のジャズとチャンバラと同じパターンである。チャンバラの真剣勝負感とるいの回転焼きに対する気合は同質のものなのである。
チャラチャチャ〜♪と勇ましい劇伴で一子がるいから回転焼きを受け取るところはお茶のお点前にも似て、真剣勝負そのものだった。
チャンバラと回転焼きづくりの場面がぐるぐると回って、時間が岡山に巻き戻ったような不思議な感覚になる。これがタイムスリップものだったら主人公がなんらかのきっかけで過去に戻り、当時を追体験しながら自分を発見し未来に繋げていくような話になるところだろう。あくまでもリアリズムのドラマのスタイルでタイムスリップものの味わいが出せるとは目からうろこである。
一子はるいの味を認め、地元の名士の娘らしい彼女の協力で回転焼き屋はうまくまわりはじめる。エキストラの青年が嬉しそうに買っていく表情がいい(この名もなき若者の頑張りに筆者は注目する)。
吉右衛門はチャンバラで腰を痛め、るいがそのお見舞いにと回転焼きを持ってきて、赤螺母子が「なつかしい味がする」と知らずに、あの“たちばな”の味を再び食べる場面は胸が熱くなる(しかも、気に入ってまた母に買ってもらって来ているところがいい)。赤螺家とるいが因縁に気づかないところが逆にいい。
テレビではモモケンの息子・桃山団五郎(菊之助が二役)が活躍している。過去と現在が重なり合う、まるで螺旋階段のようだ。過去を振り返りながら、でも完全に過去に戻るわけではなく、新しい世代、新しい時代の価値観が過去の上に乗って前進し上昇していく時間の進行を見事に可視化している。