朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第12週「1963-1964」

第54回〈1月18日(火)放送 作:藤本有紀、演出:松岡一史〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』演奏と殺陣、2組のセッションが絡み合い迫力生む朝ドラ史上稀に観る傑作回
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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なぜ、時代劇とジャズを絡めたのか

まずは、第53、54回の黍之丞の時代劇と本編の関連性について、演出の松岡一史さんと制作統括の堀之内礼二郎さんに聞いたインタビューをお読みください。

【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜54回掲載中)

――モモケン(尾上菊之助)の「黍之丞見参」シリーズの決め台詞「暗闇でしか見えぬものがある。暗闇でしか聞こえぬ歌がある」がこんなに重要になってくるとは思っていませんでした。
撮っていらっしゃる方はどんな温度感なのでしょうか。

松岡一史(以下、松岡):「暗闇」は「戦争」の隠喩でもあります。『カムカム』の100年の物語の中で戦争は重要な出来事です。安子(上白石萌音)は直接関わって、夫や家族を失い、るい(深津絵里)とも別れることになりました。戦争の影を引きずっている人は安子やるいだけではなくたくさんいますし、戦争に限らずいろいろな傷を抱えながら生きている人はいっぱいいます。

100年を描くにあたって忘れられない記憶を光や闇という比喩を使いながら表現していくことは大事と思ってはいましたが、よもや、黍之丞の台詞がジョー(オダギリジョー)を動かすキーになるとは予想はしていなかったですね。
台本があがってきてびっくりしました。藤本(有紀/脚本)さんのオリジナリティーが爆裂したのを見せられて、そう来たか!という感じでした。

――オリジナリティーが爆裂したシーン、どこに力を入れましたか。

松岡:全部です。とくにジャズの演奏シーンと時代劇の立ち回りがカットバックしていくと書かれた台本を読み、ジャズと立ち回り、2組のセッションという考えで撮影することにしました。そのセッションをどう豊かに撮るかと考えたとき、映像技術を駆使して凝ったものを見せるーーたとえば四分割とかーーよりも俳優の熱量を撮ることに重きを置きました。
菊之助さんと松重豊さんの立ち回りのみならず、ジャズも戦いの気持ちで。ほぼ1回戦(ワンテイク)、一応、2回やらせてもらいましたけれど、勢いのいい画をとって編集でつなげていくことにしました。

ジョーとトミー(早乙女太一)に伝えたのは、ここはある種、勝負ではありながら、音楽で通じ合っている友達なのだとしっかり見せたいということでした。これまではふたりで同じステージにあがるシーンもあまりなく、演奏シーンが潤沢にあったわけでもなかったので。コンテストでトミーが負ける物語ではなく、トミーとジョーの友情が帰結するようなものにしたいとお願いしました。

堀之内礼二郎:藤本さんにジャズとチャンバラがカットバックするシーンを描きたいというアイデアを伝えられ、そのために金子隆博さんにそれ用の曲を作ってもらい、アクション指導の中村健人さんにそのシーンを想定してカッコいい殺陣を考えてもらいました。
その音と絵をどうはめこむか、松岡がビデオコンテを作ったうえで撮影に臨み、編集でさらに練って作り上げた力作です。

――ジョーが手にハンカチを巻いてトランペットを吹いているのはどういう理由ですか?

松岡:トランペットを吹くスタイルはいろんな試行錯誤をしています。ハンカチは、夏場なので手汗を拭うという意味もありますが、サッチモ(ルイ・アームストロング)のスタイルを意識している部分もあります。サッチモに限らず、プレーヤーたちにはそれぞれ自由な演奏スタイルがあって、ハンカチや鉛筆を持ちながら演奏したりしているんです。ジョーも自由にいろいろなことをやれるプレーヤーということで、ハンカチは、現場でいろいろ雑談をするなかでオダギリさんが提案されました。サッチモのようなカッコよさを取り入れたいことと、演奏スタイルにちょっと変化つけたいこと、そしてこの大会に勝負を賭けているという意味もあります。


「暗闇でしか見えぬものがある。暗闇でしか聞こえぬ歌がある」

コンテスト当日、ジョーはまたしてもケチャップを服につけてしまった。慌ててるいに染み抜きを頼む。はたしてるいはジョーの出番に間に合わせることができるのか。

楽屋でみんな着替えてスタンバイしているのにジョーだけは着替えられずにおろおろ。でも「負けへんよ」と優しい声でトミーに言う。
そこに黍之丞の「暗闇でしか見えぬものがある。暗闇でしか聞こえぬ歌がある」のセリフが重なって、タイトルバックへ−−。

<君と私は仲良くなれるかな この世界が終わるその前に>という暗い予感に満ちた希求の主題歌「アルデバラン」も暗闇でしか聞こえぬ歌の最たるものだとこの瞬間痛感する。『カムカム』の背負ったものは重い。でもそんなことを感じさせないようにドラマは楽しい工夫に満ちている。

コンテストがはじまった頃、竹村夫妻(村田雄浩、濱田マリ)は映画館にいる。
人気の『若大将シリーズ』を観る予定が例の日本映画史上稀な駄作・桃剣の黍之丞シリーズ第21作『妖術七変化 隠れ里の決闘』を観る羽目になっている。「そこまで言われたらかえって観とうなるやろう」と平助(村田)は言う。



コンテストがはじまり、映画もはじまり、るいの染み抜きは完了し会場に走る。

ジョーは「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」を披露するとき、子供のときに定一(世良公則)の歌を聞いたときのことを思い出している。

審査の結果、太陽のトミーと月のジョーの決戦となった。「暗闇でしか見えぬものがある。暗闇でしか聞こえぬ歌がある」とまた黍之丞が語る。今度は実際に映画館で竹村夫妻がこのシーンを観ている。内容のヘンさにヘンな顔をしている夫妻。「黍之丞見参!」と同時に演奏がはじまる。以降、トランペット演奏と映画が交互に映る。

「この映画は日本映画史上稀に観る駄作です。しかしながら、クライマックスの黍之丞対左近の戦い。これは日本映画史上類を見ない圧巻の立ち回りです」と磯村吟(声:浜村淳)が解説。その圧巻のモモケンと伴虚無蔵(松重豊)の真剣勝負とジョーとトミーの真剣勝負。次第に魅入られていく竹村夫妻。

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』演奏と殺陣、2組のセッションが絡み合い迫力生む朝ドラ史上稀に観る傑作回

コンテスト会場の客も然り。トランペット演奏のスパークが殺陣の肉体アクションとして可視化され、殺陣が華やかなトランペットをBGMに一層熱気を帯びて見える。2組のセッションが絡み合い、その迫力が何倍にも膨らむ相乗効果。

菊之助と松重豊、舞台出身とはいえ、かたや歌舞伎、かたや小劇場と出自は違うが、見事に息があって、それぞれ力が漲っていた。最後まで淡々と美しい菊之助、やられた瞬間の松重豊の顔、最高。演奏と殺陣のフィニッシュが決まる。

いや〜すばらしい。「暗闇でしか見えぬものがある。暗闇でしか聞こえぬ歌がある」は茶化しているように見えて本質を突いていると感じるのは菊之助がふざける意思がまるでなく、真面目に演じているからだ。歌舞伎のとびきり美しい女方および二枚目をやってきている俳優だからこその風格。

暗闇を切り裂いて明るい光を獲得するのは人間の精神と肉体の力である。朝ドラ史上稀に観る傑作回だった。
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪




【前回の朝ドラ】『おかえりモネ』の全レビューを見る

番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami