朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第12週「1963-1964」

第56回〈1月20日(木)放送 作:藤本有紀、演出:松岡一史〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第56回 ジョーの中に、ジョーのトランペットの音色の中に生き続ける定一
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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定一と錠一郎

ディッパーマウス・ブルースのマッチから、かつて岡山ですれ違っていたことを確信したるい(深津絵里)ジョー(オダギリジョー)。結婚を控えているからかジョーは戸籍を取り出す。戦災孤児のため、戸籍にはひとりの名前しかなく、父母の欄は空欄になっている。
誕生日が昭和15年12月25日になっているのも本当の誕生日ではないのかもしれない。思い出の「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」を聞いた日を誕生日にしたのかも?

【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜56回掲載中)

名字は定一(世良公則)につけてもらったもので、じょういちろうの「じょう」には定一の「定」を入れた文字にしていた(金偏を指で隠したジョーの爪は三日月のようだった)。ジョーが大阪のジャズ喫茶Night and Dayで世話になっているのも定一の紹介だった。

恩人の定一はもうこの世にはいない(ショック)。だが、錠一郎の名前の中に生き続けている。そして彼の吹くトランペットの音色の中にも。

戦争で家も家族も失い、どうやら記憶もなさそうなジョーが定一と出会って、名前を得て音楽を糧に新たに生き始めた。この頃、定一は息子が戦争からなかなか帰ってこなくて寂しさを抱えていた。孫でもいれば……と言っていたことがあったから、ジョーを息子あるいは孫のように思ったのかもしれない。

「定一さんは僕の中にいてくれてる。いつも。今でも」(ジョー)

このセリフからタイトルバックへ――。
今日の「アルデバラン」は定一が錠一郎のことを想う歌のように響いた。この歌の歌詞<君と君の大切な人>とは、時を経て場所を経て歌い継がれていくものなのだと感じる。

タイトルバックあけ、ジョーはるいに呼び方を変えるように提案する。「大月さん」になるのだからと。そして自分も「るい」と呼びすてにしてみる。安子(上白石萌音)稔(松村北斗)の恩人・定一がつけた「大月」姓をるいが名乗るようになると思うとじつに感慨深い。

コンテストに挑戦して優勝したジョーはこれからレコード(LP)デビューして、るいと家族になって幸福になる。ならなくてはいけない。ところが、デビューコンサートが予定されていたクリスマス(ジョーの誕生日でもある)、るいに不穏な報せがもたらされて……。

竹村クリーニング店にふらりと現れるトミー(早乙女太一)の雰囲気がものすごく意味深。大衆芸能出身だけあってこういう思わせぶりな仕草が巧い。ジングルベルの軽快な曲もかえって不安を募らせる。


「大丈夫です。信じてます」

東京に来たジョーは笹プロの笹川社長(佐川満男)の家に居候しながらレコーディングに打ち込んでいる。芸能事務所の社長がデビュー前後の若者を自宅に住まわせることはよくあると聞く。とくに昭和の頃、そういう芸能人の話がよくあった。

オダギリジョーでなく、十代や二十代の若い俳優が演じていたら、大きなお屋敷に住むことになって、希望と不安がない混ぜのドキドキしている雰囲気が伝わってくるところだろうが、オダギリだとさすがに若者が芸能事務所の社長の家に住むある種の特別な空気はなく、わけあって社長の家に間借りする苦労人の大人にしか見えない。

そこでふと筆者は我に返った。いつの間にか、るいとジョーの物語が人生のやり直しを図っている中年のピュアで控えめな男女に見えていた。るいとジョーに、ある程度の人生を生きてきて思慮分別もあり、勤勉だが孤独で、苦労の末にようやく人生の伴侶と仕事のチャンスを見つけたという苦労人の人生巻き返しの物語を見ていた。

いや、違う。るいとジョーの設定は若くて未熟で未来ある男女なのである。子ども時代を不遇で過ごしてきて、かたや父母も家族もいなくて自分の出自のわからないジョー。かたや、母と別れ、家や家族にいい思い出がなく、忘れてしまおうと思っていたるい。
彼らは出会った親切な他人の大人たち(竹村夫妻や木暮)や友人(ベリーやトミー)のおかげで未来が拓けていく。代々の家と無縁でも新たな家族を作ることができるというお話のはずなのだ。

でもきっと、深津とオダギリが演じることで、若者に限らず、年齢を経た大人にもこういうことがあるというジェンダーレスな考えが示される。これはとても意義深いトライなのである(と思うことにする)。



深津とオダギリの年齢は広い目で見ることは可能だが、ただひとつ気になったのは、ジョーがトランペットのケースをピアノの上にどかっと置くところだ。ジョーが不躾なもの言いをするのはいいが、楽器には繊細であってほしい。ピカピカのピアノの蓋に傷がつかないかひやひやした。

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第56回 ジョーの中に、ジョーのトランペットの音色の中に生き続ける定一
写真提供/NHK

笹川奈々という存在

コンテストからずっと笹川社長に付き従っている奈々(佐々木希)は笹川の娘で、芸能関係の英才教育を受けていて、目利きらしい。ジョーの才能にも期待しているようだ。東京に行ったジョーを狙う人はたくさんいるとベリー(市川実日子)はるいを心配する。奈々がいちばん要注意人物だとベリーは主張する。

たしかに若く美しく音楽的な知識も豊富。ジョーがトランペッターとして活躍するためには彼女のほうにメリットがある。
よくあるパターンだと、奈々はジョーに好意をもって、いろんな好条件をぶら下げて迫ってきて、ジョーの心は揺れる。3ヶ月も離れていたら……。るいは手紙も出さず、3ヶ月、クリスマスのデビューコンサートまでじっと大阪で待っているのだ。山下達郎の<きっと君は来ない♪>という歌が思い浮かんだ。
(木俣冬)

【前回の朝ドラ】『おかえりモネ』の全レビューを見る

番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami
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