朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第14週「1965-1976」

第64回〈2月1日(火)放送 作:藤本有紀、演出:二見大輔〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第64回 働かないが物事の本質を知っているジョーの人生哲学
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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10歳のお父さんとお母さん

三代目ヒロインひなた(新津ちせ)の子供時代編。10歳、小4の夏休みを遊びほうけたため、宿題が終わらず、夏休みの最後の日のラジオ体操にも行かず宿題に励むことに。63回はひなたのほのぼの夏休みから戦後30年の黙祷をはさんで戦争で受けた傷は消えることはないことを示したのち、宿題が終わらないというほのぼのに戻るというバランスの良さがあった。


【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜64回掲載中)

ひなたの宿題をジョー(オダギリジョー)が手伝うが、算数が全然できない。絵日記を描くとアバンギャルド過ぎて使いづらい。

ジョーは本当に何もできない。働いているそぶりもなく、るい(深津絵里)だけが働いている。お父さんが働いていなくても大月家には不思議と穏やかな空気が流れている。まるで鴨川のように。


だが、るいはひなたには厳しい。毎年同じこと(夏休みの宿題をしない)を繰り返した挙げ句、唯一続けていたラジオ体操も最終日に行かなかったことを咎め、「宿題なんかせんでえ」と叱りつける。叱るといっても、るいはものすごく穏やかなので内容だけが伝わってくる。ガミガミ言われると本質と関係なく叱られたことがいやな気持ちになってしまうもの。るいはそうではないのが良いところ。

とはいえ宿題を続けるひなたの元へ、夕立の日、ひなたが傘を貸したメガネっ娘・小夜子(竹野谷咲)が傘を返しに来る。
宿題を手伝う小夜子に家庭の事情を話すひなた。幼稚園の頃はジョーが働いていないことでいじめられたこともあったとか。とくに吉之丞(石坂大志)に。でもしょんぼりして帰宅するとジョーが呑気にテレビで時代劇を観ていて、彼の膝の上で一緒に観ていたら時代劇が好きになったのだと語る。

テレビで活躍する侍は皆、「強くてやさしくて絶対に泣かない」「弱音なんてはかない」。だから好きなのだと言うと、「高潔なんやね」と小夜子が感心する。
「高血圧じゃなくて」と返すひなた。茶化しているけど、侍の高潔さを理解する小夜子の知性がすばらしいし、ひなたがそういう人物を目指していることも頼もしい。

ひなたの部屋には黍之丞のポスターのほかに『旗本退屈男』のポスターが貼ってある。旗本退屈男は額に傷を持つ侍で「天下御免の向こう傷」という決めセリフがあるが、額に傷を持つるいはどう思っているのだろう。

ひなたの話を部屋の外でそっと聞いているるい。働かず、一般の家庭の父とはどこか様子が違うジョーのことをひなたなりに受け入れていることをたぶんるいはほっとしている。
るいがジョーを受け入れているからだろうとも思う。お母さんがお父さんはだめだと否定していると、子どももそう思うようになってしまうものだから。



朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第64回 働かないが物事の本質を知っているジョーの人生哲学
写真提供/NHK

ジョーはるいと結婚できたことを感謝している。子育ての自信が揺らいでいるるいにジョーは「ひなたは10歳や。僕は10歳のおとうさん、るいは10歳のおかあさん。一緒に大きくなっていったらええねん」と前向き。
この言葉は多くの子育てに迷う若いお母さんやお父さんを励ましたことだろう。最初からベテランな親はいないってことだ。

ジョーは何もできないが豊かな感性を持ち、物事の本質を知っている。絵心も独特だがある。友達に恵まれているひたなの幸福を自分たちはよくわかっていると言うジョー。戦災孤児の彼が定一(世良公則)木暮(近藤芳正)トミー(早乙女太一)、ベリー(市川実日子)に助けられ、大阪にひとり出てきたるいが竹村夫妻(村田雄浩、濱田マリ)に救われたことを結婚して10年経っても決して忘れていないのだろう。
京都の街でも意外と受け入れられているようだし。

ジョーの場合、穏やかで働かない以外はいやなところがなく、むしろ聖職者のように人生哲学を語ってくれて救われるが……。たいてい癇癪持ちだったり暴力をふるったり無駄遣いしたりお酒を飲んだり病気がちでお世話が必要だったりというようなこともくっついてくるもので、そこはファンタジーだなあと思う。
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪







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番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時0分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami