朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第17週「1983-1984」

第81回〈2月24日(木)放送 作:藤本有紀、演出:安達もじり〉

朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第81回 ひなたと算太は似た者同士、非常に気が合う(安達もじり氏)
写真提供/NHK

※本文にネタバレを含みます

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あの『妖術七変化 隠れ里の決闘』を見てしまうひなたと五十嵐

あの映画『妖術七変化 隠れ里の決闘』をもう一度作るにあたって、敵・左近役のオーディションが開催されることになった。受ける気満々の五十嵐(本郷奏多)虚無蔵(松重豊)に稽古を頼むが断られる。

【レビュー一覧】朝ドラ『カムカムエヴリバディ』のあらすじ・感想(レビュー)を毎話更新(第1回〜81回掲載中)

虚無蔵がオーディションを受けようとひとり黙々と武士のように稽古に励んでいると、モモケン(尾上菊之助)が現れて嫌味を言う。
「虚無さんじゃなければヒットしたかもしれないと上層部が言っていた」とモモケンは言うが、当時は内容はひどかったが初代モモケンと虚無蔵の最後の大立ち回りだけはすばらしいと目利きの評論家(声:浜村淳)にラジオで解説されていたではないか。

時間というものは残酷で、このように事実をなきものにしたり歪めたりしてしまう。2代目モモケンは噂によると当時、父子共演するはずが外されて虚無蔵に代わられてしまった。だから今、その屈辱の過去をリメイクして書き換えてしまおうとしている。

作品の再生はその作品の核たるものを守って作り直すことで未来に残す有意義なこともあれば、勝手に作り変えて違うものにしてしまうリスペクトのないものもある。後者は大げさに言ったら歴史の改ざんとも言えないこともない。
もちろん新しい風を入れていくことで進化させていく必要もあるのだが。

それこそ尾上菊之助のホームグラウンドである歌舞伎は歴史の伝承としての古典歌舞伎の継承を行いながら、新たなものを生み出す新作歌舞伎の上演、その両方を行っている。とにかく引き継がないと人々の記憶から大事なものが消えてしまう。クローゼットの奥にしまってあるものはあってないのと同じである。折につけ活用しないことにはアーカイブの意味はない。

振付のおっちゃん(濱田岳)はサンタ黒須と名乗っていた。
この名前、この顔、この声、ダンスとくれば算太に違いないと視聴者は思う。「サンタ黒須や」と名乗るときのちょっとの間は彼が橘の名前を手放していることへの何らかの思いがあるように感じる。まあここで「橘算太」と名乗ってしまうと、ひなたは母方の「橘」の姓を認識しているかわからないものの、ひなたと算太のすれ違いドラマに水を差しかねない。振付師としての箔をつけるために英語名にしているのもおかしくはない。

いずれにしても、算太がひなたをまっすぐ見ないで顔を斜めにしているのは、彼の屈折したところと、ひなたの顔をがっつり見てしまうと何か気づいてしまいそうなところと、いろいろありそうだ。さりげなく顔を反らしている姿には味わいがある。


演出の安達もじりさんに取材したところ、「川栄李奈さんと濱田岳さんには撮影の前に、ひなたと算太は似た者同士で非常に気が合うと思います、と話しました。算太の血を最も受け継いでいるのはたぶんひなたではないでしょうか」と語っていた(ヤフーニュース個人より)。

ふたりの気が合う感じは、ひなたと算太の会話では、ひなたが「え」とつなぎ言葉をほとんど用いていないことからもわかる。ポンポン軽快に言葉が出てきて話が進んでいく。ここは必要な情報をふたりに語らせないといけないからとも言えるし、この場面が重要だから無駄な「え」を使用している場合ではないのだと思う。

ひなたが「え」「え」をやたらと使うのは、身内ではないやや距離のある人たちとの会話のときで、彼らの真意を測りかねるからだ。
それがよく知る人だと、どんどん言葉が出てくる。いわゆる阿吽の呼吸で話ができる。だが虚無蔵の独特な言葉遣いや知らない専門用語、最初はいやな印象のあった五十嵐には「え」やオウム返しになる。五十嵐とは次第に距離が近づきつつあるが、まだ「え」が多い。



朝ドラ『カムカムエヴリバディ』第81回 ひなたと算太は似た者同士、非常に気が合う(安達もじり氏)
写真提供/NHK

算太から映画『妖術七変化』のリバイバル上映のチケットをもらったひなたは五十嵐に一枚譲り、ふたりで観に行くことにする。嵐電に乗ってチケットを見ながらにこにこしている五十嵐が微笑ましい。
映画を観た後、「殺陣がすごかった」しか言えないふたり。時代が変わっても、やっぱり内容はおもしろく感じないようだ。

るい(深津絵里)は「なんの巡り合わせやろねえ」としみじみ。なにしろ、錠一郎(オダギリジョー)と観に行った思い出の映画。

チケットのお礼にポップコーンをおごる五十嵐だが、じつは自分の食事もままならなず、大月家でごちそうになる。錠一郎もそれなりに身長があるはずだが、やけに五十嵐が大きく見える。
現代の若者でアクションをやる俳優としてのたくましさ(痩せているけれど)が感じられる。あぐらの錠一郎と正座の五十嵐。座り方の違いに過ぎないが、錠一郎には“ザッツ家長”という堂々たる雰囲気がまったくないことが改めて可視化された。
(木俣冬)

『カムカムエヴリバディ』をさらに楽しむために♪







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番組情報

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ

2021年11月1日(月)~

<毎週月曜~土曜>
●総合 午前8時00分~8時15分
●BSプレミアム・BS4K 午前7時30分~7時45分
●総合 午後0時45分~1時00分(再放送)
※土曜は一週間の振り返り
<毎週月曜~金曜>
●BSプレミアム・BS4K 午後11時00分~11時15分(再放送)
<毎週土曜>
●BSプレミアム・BS4K 午前9時45分~11時00分(再放送)
※(月)~(金)を一挙放送
<毎週日曜>
●総合 午前11時00分~11時15分
●BS4K 午前8時45分~9時00分
※土曜の再放送

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢
:藤本有紀
プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 齋藤明日香
演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史
音楽:金子隆博
主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈
語り:城田優
主題歌:AI「アルデバラン」


Writer

木俣冬


取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。

関連サイト
@kamitonami